各種資料
韓統連に対する旅券を利用した弾圧問題について
李俊一(イ・チュニル)
金整司事件を捏造し韓民統(現韓統連)を反国家団体と規定
韓統連(在日韓国民主統一連合)の前身である韓民統(韓国民主回復統一促進国民会議)が結成されたのは朴正煕政権時代。在日本大韓民国民団(民団)内の民団民主化勢力が、当時日本に滞在中の金大中氏とともに朴正煕独裁政権に反対する海外同胞組織を結成することに合意。1973年8月15日に結成した(※1989年2月に韓統連に組織改編)。
以降、韓民統は日本国内で反独裁民主化運動を展開してきたが、1977年、「在日同胞留学生スパイ事件」の裁判でスパイの嫌疑をかけられた在日同胞学生・金整司氏の「背後勢力」として突然国家保安法上の「反国家団体」と規定された。朴正煕政権は150余名の在日同胞留学生にスパイのレッテルを貼り、拷問により自白を強要し、死刑、無期懲役などを宣告。全斗煥政権時代である1980年には、金大中元大統領が韓民統の議長であったという経歴を理由として、反国家団体の首魁として死刑を宣告された。
金整司氏は無罪判決を受けたが、韓統連は反国家団体のまま
スパイとして逮捕・起訴された金整司氏は、国家保安法に違反したとして懲役10年が確定していたが、2009年「真実・和解のための過去事整理委員会」が、この事件が拷問行為などの強権捜査によって捏造されたという調査結果を発表。2013年の大法院による再審判決によって無罪を勝ち取った。しかし、韓統連の「反国家団体」規定はいまだ解消されておらず、旅券発給拒否、および有効期間の制限など不当な弾圧が続いている。
在日同胞が祖国である韓国を往来するためには、韓国政府が発行する旅券が必要だ。韓統連の会員は韓国国籍であるにも関わらず30年以上もの間、祖国である韓国を自由に行き来することができなかった。会員の中には、国内での親の葬儀に立ち会えなかったり、米国や英国などへの長期間の研修、留学が制限されたりと、生活上での様々な困難に見舞われた者もいる。
李明博政権下で再び旅券を利用した弾圧が再開
2003年9月、民弁をはじめとした国内民主勢力の努力によってようやく韓統連として一時的に帰国が実現したものの、李明博政権下で再び旅券を悪用した弾圧が再開された。パスポート(旅券)の有効期間は本来10年であるにも関わらず、韓統連の会員に対しては1年・3年・5年など不当に制限されてきた。
韓統連会員に対して、旅券発給を申請の際、政府(領事館)が身元陳述書を要求。△在日本朝鮮人総聯合会(総連)の活動経歴△訪北経歴△朝鮮船舶への乗船関係△旅行証明書発給申請関連事項(招請者姓名、発給申請理由、国内旅行日程)などを記述することを要求され、韓統連を脱退する意志があるのかと質問されたケースもある。
韓統連対策委が国家人権委員会に提訴
2019年4月23日、ソウルで「韓統連の完全な名誉回復と帰国保障のための対策委員会(略称、韓統連対策委員会)」が発足。チェ・ビョンモ対策委員会代表は発足式の記者会見で「韓統連が現在弾圧を受けている理由は、日本で韓国の独裁政権に反対し民主化運動をしたという、ただその一点のみ。韓統連の会員はみな自由な韓国人として、韓国に入国することを拒む理由はない」として、韓統連の名誉回復と帰国保障を韓国政府や国家人権委員会に強く要求した。
不当な有効期限短縮を是正し、10年旅券の保障を勧告
韓国政府発行のパスポートの有効期間は本来10年であるにも関わらず、韓統連の会員に対しては1年・3年・5年など不当に制限されてきた。その法的根拠とされているのは旅券法第6条第2項第5号だ。その内容は「国外に滞留する国家保安法第2条に基づく反国家団体の構成員として、大韓民国の安全保障、秩序維持および統一外交政策に重大な侵害を引き起こす憂慮がある人に対しては(旅券の有効期間を)1年から5年までの範囲で侵害憂慮の程度に従って外交部長官が定める基準に従って決定する」となっている。これに対して国家人権委員会は、外交部は「大韓民国の安全保障、秩序維持および統一外交政策に重大な侵害を引き起こす憂慮がある人」であるかどうかについて根拠を示すこともなく「反国家団体の構成員」であることだけをもって一律に有効期間を制限したのは不当であり、憲法第14条「すべての国民は居住・移転の自由を持つ」を侵害するので是正するよう勧告した。この決定に基づいて外交部が関連手続きを整備すれば、今後、韓統連の会員に対しては、すべて有効期間10年の旅券が等しく発給されることになる。
誰も自国に帰る権利を剥奪されてはいけない
韓国政府が旅券発給を拒否する場合、その根拠とされてきたのは旅券法第12条第1項だ。その内容は「長期2年以上の刑に該当する罪によって起訴されている人、あるいは長期3年以上の刑に該当する罪によって起訴中止になるか、逮捕令状・ 拘束令状が発布された人の中で国外にいる人」に対して外交部長官は旅券の発給を拒否することができると定められている。これに対して国家人権委員会は、旅券法第12条は大韓民国に居住していて罪を犯した者が海外に逃亡することを防止するか、すでに逃亡した者に対して旅券の再発給を拒否することで帰国させることを目的としたものと判断される。これが在外国民に適用された場合、大韓民国国民でありながら大韓民国に入って来ることができないという悲劇を招来することになるので、法改正の必要があるとの意見を表明したのだ。「世界人権宣言」第13条第2項「すべての人は自国を含めてどのような国であれ離れることができる権利と自国に戻れる権利を持つ」、および「市民的政治的権利に対する国際規約」第12条第4項「誰であれ自国に帰ってくる権利をはく奪されてはならない」という規定を引用して、在外国民が祖国に帰る権利を保障するよう法改正を求めたことは画期的なことだと言える。
在日同胞の祖国に帰る権利を保障しなければならない
在外同胞に対して旅券を制限することは、大韓民国憲法第14条「居住、移動の自由」を侵害し、国連が採択した「市民的政治的権利に関する国際規約」第12条4項「いかなる者も自国に帰る権利を恣意的に剥奪されてはならない」にも抵触する。国際的規範からみても、深刻な人権侵害である。
特に在日同胞のほとんどは自由意志によって海外に移住した移民とは違い、日本帝国主義による朝鮮植民地支配によって、強制、半強制的に日本に移り住まざるを得なかった人々と、その子孫である。そのような在日同胞から祖国に帰る権利を奪うということは、日本が犯した植民地支配という罪を韓国政府が解決するどころか、その罪業を継承し、在日同胞への差別・抑圧に加担するということだ。
国家保安法廃止こそが韓統連旅券問題の根本的な解決方法
まして韓統連は結成以降、韓国社会の民主化と祖国統一にむけて一心に闘争しつづけた愛国組織だ。そのような組織を不当に弾圧し、いまなお問題を放置するというのは、韓国政府が海外同胞による民主化運動、統一運動を否定するのと同義ではないか。
また、そもそも旅券制限の根拠となっている韓統連に対する「反国家団体」規定自体が不当である。韓統連が反国家団体であるか否か、ということが国会や法廷で審議されたことは一度もなく、組織となんの関係もない在日同胞スパイ捏造事件の公判の中で突然「宣告」されたものだ。法的根拠は皆無であり、国家保安法という法律がいかに不条理で、前時代的なものであるかを物語っている。独裁政権時代に弾圧の物差しとして猛威を振るった国家保安法は、本来韓国社会の民主化とともに死滅すべき悪法であるが、いまなお存続しており、わが民族の宿願である祖国の自主的平和統一を妨害するだけでなく、世界中の良心的な同胞の人生を歪め、苦しめている。
国家保安法廃止を要求する声は近年更に高まっており、昨年は国民の圧倒的支持のもと国民請願が可決された。韓国政府及び国会は、国民の意志を尊重し、すみやかに国家保安法の廃止を進めるべきである。国家保安法の廃止こそが、韓統連の旅券問題を根本的に解決する方法である。