各種資料
日本の新軍国主義志向を越える多者安保方案はなにか
平和連帯・日本(準)執行委員長、韓統連事務長 李俊一
日本の安保政策の大転換点「安保三文書」
日本の自民党政権はこれまで、侵略戦争・植民地支配の反省をせぬまま、再び「戦争ができる国」となるべく軍事大国化への道を進み続けてきた。特に第二次安倍政権(2012~2020年)下によってその動きは加速し、2013年12月、日本は外交・安全保障政策の基本方針として「安全保障関連3文書(安保三文書)」を策定・閣議決定した。閣議決定とは、本来国会で論議すべき重要な法案を内閣のみで論議し決定するという、国会軽視の非民主的な国政運営であり、安倍政権以降、自民党はこの「閣議決定」を連発しながら強引に再軍備への道をひた走ってきた。
安保3文書とは「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の総称であり、中国の軍事的な台頭や朝鮮の核・ミサイル開発などを背景としながら「米国をはじめとする関係国と連携し、国際社会の平和と安定に積極的に寄与する」ため、「国際協調主義に基づく積極的平和主義」を基本理念として掲げ、防衛力の着実な整備や日米同盟の強化などを柱においた。その後、安倍政権は、安保法制を整備し米国などが攻撃された時に共に戦える「集団的自衛権行使」を一部容認。武器の輸出を原則禁止していた武器輸出三原則を撤廃したうえで、条件付きで輸出を容認する「防衛装備移転三原則」をつくるなど、安保3文書にある防衛力強化の方向性をさらに強めるような政策を打ち出した。
2022年には岸田文雄内閣が「安保3文書」を改定。「相手国の領域内においても、弾道ミサイル等による攻撃を防ぐため、やむを得ない場合に限り、相手国の基地等を打撃する能力」として「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有を明記。それまで日本が原則として維持してきた「専守防衛」のラインを逸脱した。
高市政権は現在、安保3文書のさらなる改定を進めている。最大の焦点は防衛費の増額だ。政府は長く国内総生産(GDP)比で1%枠を維持してきたが、米トランプ政権は現在、同盟国に対して防衛費を対GDP比3.5%に引き上げることを要求している。日本は2025年度に補正予算を合わせて2%に増加。今後はさらに増額していくものと見られる。
また日本が長年堅持してきた「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」という「非核三原則」も、その存在が揺らいでいる。高市首相は、2024年の編著書において、非核三原則について「(核兵器)を持ち込ませず」については「現実的ではない」と指摘しており、日本への核兵器の持ち込みを容認するかのような態度を示している。世界唯一の被爆国にも関わらず、核兵器搬入を容認するかのような発言は日本国民の反発を招いており、朝日新聞社が2026年3~4月に行った全国世論調査によると「非核三原則は維持すべきだ」という意見が全体の75%をしめている。
アジア諸国に好戦的な高市政権
支持率の低調が続く自民党政権の中で、挽回の「切り札」として登板したのが高市早苗氏だ。諸外国に対して「弱腰」と見られた石破前政権への反動から、外交・安全保障や危機管理において「毅然とした対応をとる」として、特に若年層から支持された。演説スタイルや明るいキャラクターが若い世代の目に「親しみやすい」と映り、持ち物(ボールペンやハンドバッグ等)を真似る「サナ活」現象が起きるなど、アイドル的な熱狂が巻き起こった。こうした熱狂は、従来の保守層にとどまらない幅広い層の票を集める原動力となり、2026年2月に実施された衆議院選挙では、自民党が465議席中316議席の議席を獲得し圧勝した。日本の憲法改正には国会議員総数の3分の2である310議席以上の賛成が必要であるが、自民党は現在、単独でその数を上回っている。
高市首相は、就任当初からアジア諸国、特に中国に対して好戦的な姿勢をみせた。2025年11月の国会(衆院予算委員会)において、「中国が台湾を攻撃し、米軍の武力行使を伴う事態になれば存立危機事態になり得る」と発言し、大きな波紋を呼んだ。「存立危機自体」とは「日本と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の生命や自由が根底から覆される明白な危険がある状況」を指し、この事態が認定されると、日本が直接攻撃を受けていなくても、集団的自衛権を行使し自衛隊による武力行使が可能とされている。「台湾有事が起これば日本は中国を武力攻撃する」とも解釈できる発言であり、中国政府は「『一つの中国』原則に反する内政干渉だ」として強く反発。日本への渡航自粛や留学を慎重に検討するよう中国国民に呼びかけるなど、事実上の対抗措置とみられる動きを次々に打ち出し、2026年1月には、レアアースを含む軍民両用(デュアルユース)製品の対日輸出規制を強化。日中関係は急速に冷え込んでいる。
高市早苗首相は、保守系団体である「日本会議」の国会版組織「日本会議国会議員懇談会」の副会長を務めており、同団体が推進する憲法改正(特に憲法9条)や天皇制など伝統的な価値観の擁護などに賛同する立場をとっている。安倍元首相も日本会議とは長年にわたり極めて密接な協力関係にあったとされており、高市首相は、安倍首相によって強く押し出された極右政策の後継者といえるだろう。
現在、高市政権は憲法改正を実現するための下準備として国民投票法の改正を進めている。日本における憲法改正は、国会での可決後国民投票を行い、過半数の賛成によって実現する。ゆえにその手続きを定める国民投票法は、国民が公平かつ充分な情報を得た上で、自由にその意思を決定する内容でなければならない。しかし現在進めている改正案では最低投票率が規定されておらず、有効投票の過半数の賛成があれば可決されてしまう。また投票運動期間中のメディア、インターネット広告に対する量的な規制や上限が設けられていないため、資金力のある政党や団体が有利になる恐れがある。まさに現在の自民党政権にとって圧倒的な有利な環境下での国民投票を実現させるものであり、非常に危険な動きと言える。国民投票改正案は4月13日の衆議院本会議に続き、7月24日の参院本会議で可決され成立した。
歴史認識と「戦争ができる国」
これまで日本政府は、日本がかつて朝鮮やアジア諸国において犯してきた戦争・植民地支配における犯罪行為を一貫として認めてこなかった。被害者が起こした戦後補償裁判でも、日本政府・加害企業は過去の罪を否定。被害者に対して謝罪、補償せず、韓日「慰安婦」合意や元徴用工に対する「第三者弁済」など、被害者を置き去りにした、身勝手な「解決法」を被害者に押し付け問題を矮小化。韓国の親日派と結託し、「手切れ金」「口止め料」を渡すことで強引に問題を幕引きしようとしてきた。
また、「軍艦島」や佐渡金山など、植民地時代に朝鮮人を強制動員し開発した史跡をユネスコなどに歴史遺産として登録する際も、意図的に強制動員の歴史を隠蔽し、韓国など周辺諸国の反発を招いている。日本の教科書が日本軍性奴隷制被害者に対する記述が削除されて久しく、学校教育の場において日本の加害の歴史を生徒たちに教えることは非常に難しくなってきている。
最近では李在明大統領と高市首相による首脳会談において、長生炭鉱の水難事故で犠牲になった朝鮮人の遺骨収集などを共同で行うという合意がなされたことは評価できるが、これは長年遺骨収集に取り組んできた民間団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会(刻む会)」の努力よるものが大きく、また、「刻む会」が政府交渉の中で戦略的に問題を「歴史問題に触れず遺骨収集に限定した」ことが功を奏した結果といえる。高市政権が韓日の共同作業を通じて、過去の植民地支配に触れるかは非常に不透明である。
これまで日本の市民運動の積み重ねによって、「河野談話」(1993年)「村山談話」(1995年)など、一部政治家が過去の歴史について「反省とお詫び」を述べたことはあったものの、のちの政権にその姿勢が引き継がれたとは言い難く、日本政府の政策転換にまでは至っていない。戦後補償裁判においても、原告たちの必死の闘いによって、韓国大法院での歴史的勝利を勝ち取ったが、日本政府と加害企業は一向に反省せず、大法院の賠償命令を無視し続けている。
日本が進める再軍備政策と、過去の歴史に対する隠蔽、歪曲は表裏一体のものである。再び「戦争ができる国」として国際社会で「飛躍」したい野心があるからこそ、過去を見つめることをしないし、できないのだ。しかし、このような行いは、特に過去に日本によって被害を受けたアジア諸国にとっては受け入れがたいことであり、過去の歴史にきちんと向き合わない限り、日本が米国の一極支配から抜けだし、アジア諸国と本当の意味で信頼関係を構築し、多者安保体制を構築することはできないだろう。
在日同胞と過去清算
在日同胞は日本の植民地支配によって生まれた存在だ。植民地支配によって仕事も土地も奪われ、生活苦によって日本に渡らざるを得ない状況であった者がほとんどであり、その過程が「強制であったか、そうでないか」というのは主要な問題ではない。日本の植民地支配が、在日同胞を生んだ背景であるということが重要なのだ。1945年の解放によって在日同胞のほとんどが祖国に帰還したものの、故郷の村がすでに破壊されていたり、日本政府による不当な財産持ち出し制限によって、帰ったところで満足に生活できる保障がなかったりした結果、多くの在日同胞が日本に定住して生きることとなった。
日本政府は戦後から一貫して在日同胞を差別・弾圧してきた。解放間もない1948年から49年にかけて日本政府は、在日同胞が民族の言葉、文化や歴史を学ぶために作った朝鮮学校を、警察力によって強制的に閉鎖・解散させた。その後朝鮮学校は朝鮮総連によって再建され、日本の中で民族教育を続けてきたが、日本政府は朝鮮学校を「各種学校」としてあらゆる法的な支援から排除し、近年では「高校無償化」「幼保無償化」から朝鮮学校を意図的に除外している。2025年には、当時の茂木敏充外務大臣が、国会の中で野党議員が「高校無償化からの排除は人権侵害だ」と質問したことに対して「無償化から排除することは朝鮮による日本人拉致問題に対する報復措置だ」という趣旨の答弁を返した。朝鮮学校に対する差別が、植民地支配の未精算に由来する、対朝鮮敵視政策の一環であることを認めたということだ。
高市政権はじめ、自民党の歴代政権は朝鮮との国交正常化に意欲的であり、高市首相も朝鮮の金正恩国務委員長との首脳会談の開催に強い意欲を示しているとされている。しかし、朝鮮政府にとって朝鮮学校の生徒たちは大切な同胞であり、民族の一員だ。そのような朝鮮学校に対する差別を、拉致問題を口実にして継続している日本政府に対して、朝鮮政府がまともに取り合うはずがない。また、日本は現在韓米日による軍事同盟化を積極的に進めており、タブーとされていた韓米日による合同軍事演習も強行した。自国の近海で、米国の戦略資産を動員した軍事演習を進める国と、いったいどのような対話ができるというのか?外交の基本は「相手の嫌がることをやめる」ことである。日本政府が真に朝鮮との対話を望むのなら、在日同胞による差別政策および対朝鮮即時政策を全面的に撤廃すべきである。
民族教育に対する差別が常態化することによって、在日同胞は自らの民族の言語や文化、歴史を学び、民族的なアイデンティティを学ぶ場所を奪われ続けている。在日同胞の人生は日本による植民地支配の未清算と、冷戦体制による民族分断の歴史と密接に結びついており、これらの問題の解決なくして、在日同胞が韓国人・朝鮮人として民族的に堂々と生きる道は開くことはできないだろう。
戦争機運を後押しする排外主義
植民地支配の未清算ともつながるが、日本の軍国化と連動しているのが排外主義の高まりだ。高市政権は「不法滞在者ゼロプラン」を掲げ、「ルールに違反する外国人を徹底的に削減する」という名目のもと、外国籍住民に対する弾圧を強化している。2026年の衆議院選挙では「日本人ファースト」を叫ぶ排外主義政党が多くの議席を獲得し、問題視された。またSNSでは外国籍住民を誹謗・中傷するデマが飛び交っている。2026年5月には出入国管理及び難民認定法が改悪され、一律6,000円だった在留期間更新・変更等の手数料は期間に応じた段階制(1万〜7万5,000円)へ移行し、永住許可は1万円から20万円へと大幅に引き上げられる。商業ビザの取得条件も従来の500万円以上から3,000万円以上へ大幅増額され、外国籍住民の生活権は深刻に脅かされている。
政府が率先して外国籍住民を弾圧することにより、一部市民による外国人ヘイトが容認されている。良心的な日本人市民の運動によって、ヘイトスピーチ、ヘイトクライムを禁止・規制する条例が川崎市など一部の地方自治体で可決され、一定の歯止めとなっているが、川崎の朝鮮学校に対してヘイトスピーチを行ってきた集団が、今度は近隣の別の地域に拠点を移し、クルド人を攻撃するなど、執拗にヘイト集団の活動が続いている。こうした動きが規制されることなく拡大すれば、次第に日本人の中で外国人は同じ地域住民ではなく、「治安対象」あるいは「敵」として認知されるようになるだろう。
100年前に発生した関東大震災において、数多くの朝鮮人・中国人などが虐殺されたが、当時の日本政府は、震災における恐怖と混乱、政府への批判を鎮めるため、官報やメディアを利用しながら意図的に朝鮮人・中国人を「暴徒」として印象づけ、住民による虐殺を助長した。東京では毎年、在日同胞や日本市民が8月末から9月にかけて関東大震災における虐殺犠牲者の追悼祭を行っているが、東京都の小池百合子知事は「都が主催する法要で全ての犠牲者に哀悼の意を表しているため、個別の形での送付は控えるべき」という理由で、2017年以降、追悼文を送付していない。「震災」という自然災害の犠牲者は追悼するが、震災に紛れて横行した「虐殺」の犠牲者は追悼しないということだ。加害の歴史を徹底的に隠蔽する日本社会のあり方が、ここにも現れていると言える。
戦争は、相手国の人間を、話し合いの通じない、野蛮な「敵」と認識することによって正当化される。現在日本に蔓延する排外主義は、本来同じ地域を支える「友」であるはずの外国籍住民を「敵」と誤認させる危険性がある。日本で戦争が起これば真っ先にターゲットになるのは、わたしたち在日韓国・朝鮮人をはじめとしたアジア系の外国人であることは明白であり、わたしたちはまず自分たちの命を守るためにも、排外主義に反対していかなければならない。
今後の課題
わたしたち韓統連は、組織結成以来、民族自主・韓国民主化・祖国統一を目標とした「自主・民主・統一」運動を闘争の基軸として闘ってきた。2024年末の尹錫悦による戒厳令発布と、それにつづく内乱勢力の動きに対しては、良心的に日本市民とともに組織を上げて反対し、「光の革命」の一員として闘ったという自負がある。
一方で、わたしたち在日同胞をはじめとする外国籍住民は、これも民族差別の一環であるが日本の国政参政権を持っていない。日本の政権問題が、わたしたち在日同胞の生活にも大きな影響を与えることは自明ではあるが、現時点でわたしたち在日同胞が、日本の政局に選挙という方法で直接影響を与えることはできないし、なによりわたしは、日本社会変革の主体はあくまで日本人である、と考えている。
そのうえで今後の日本社会の課題を、在日同胞の立場として提案したい。
まずなによりも、戦争への道をひた走る高市政権の打倒が緊急かつ最優先だ。発足直後は圧倒的な支持率を誇った高市政権だが、相次ぐ不祥事や外交政策の失敗、止まらない物価高などの要因により、7月には初めて支持率が5割を割り込み、不支持率が支持率を上回った。高市フィーバーの中での衆議院選挙によって、野党全体で大幅に議席を減らし、政局としては苦境が続いているが、国会前には多くの市民が集い、高市政権と闘っている。韓国の「光の革命」さながらに、日本市民もペンライトを掲げ路上に出ることが多くなった。韓国と日本の市民が運動を通じて互いに交流し高め合い、連帯を深めていくことが、互いの力をより高めいくことにもつながるだろう。現在高市政権は平和憲法の改正を急ピッチで進めており、このような危険な動きはなんとしても阻止しなければならない。
米軍主導によって東アジアで展開される合同軍事演習に反対することも必要だ。現在韓米日が中心となり、アジア諸国やオセアニア地域をも巻きこんだ合同軍事演習を強行しており、これに対して韓日市民は団結して反対していかなくてはならない。
また、韓日の連帯によって日本の過去清算問題を進めることも必要だ。先述したとおり、過去に対する無反省こそが、日本の軍国化のバックボーンとなっている。過去の真実をひとつひとつ明らかにしながら、日本政府・企業に対して一貫して謝罪と反省を求め続けるとともに、学校教育やメディアの分野においても、日本の加害の歴史を浸透させていかなくてはならない。また、日本の戦争責任問題の根幹として天皇制の問題がある。この問題に関しては、右派だけでなく、日本社会全体として触れることをタブーとする風潮があるが、戦争の最高責任者である天皇が免罪されている限り、日本の真の反省と謝罪はない。長期的な克服課題の一つとして捉えるべきだ。
わたしたち在日同胞に対する差別解消も克服すべき課題である。わたしたち在日同胞は日本の植民地支配によって生まれ、祖国の分断によってその運命が歪められてきた。在日同胞が民族の一員として、日本社会の中で堂々と暮らせる状況を作ることこそが、日本社会の軍国化を止揚し、日本がアジア諸国の真の友人として、多者安保の道を歩む指標となっていくだろう。わたしたち韓統連は、これからも民族の主体として、日本と祖国の平和を愛する人々をつなぎ、連帯運動を強化する役割を果たしていきたい。



