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【論評紹介】「米国が世界を破壊している」…ミュンヘン安保報告書
自主時報 2月16日
2026年2月、ミュンヘン安全保障会議(※同会議は1963年から毎年2月にドイツのミュンヘンで開催される国際安全保障政策に関する世界最大規模の独立フォーラム。今年は13~15日に開催)の開幕を前にして公開された年次報告書はタイトルからして直接的だ。タイトルは「Under Destruction」、直訳すれば「破壊中」だ。報告書は現在の世界秩序をこれ以上、漸進的な改革の対象としてではなく、撤去用のブルドーザーと鉄ハンマーが乱舞する破壊の対象として規定する。そして、その破壊の主役として米国政府が目されている。トランプ大統領を「最も強力な斧使い」と描写し、NATO(※北大西洋条約機構)同盟国に対する防衛費圧迫、グリーンランド「占有」発言のような事例を列挙する。80年以上、米国が主導してきた戦後国際秩序が外部の攻撃ではなく、自らの手により崩れているとの診断だ。この報告書がロシアや中国ではなく、欧州エリートにより作成されたという点こそ核心である。西側の不安な自白だ。
報告書はロシアのウクライナ戦線への進撃とハイブリッド攻撃(※ハイブリッド戦争=軍事的な攻撃と非軍事的な手段を複合的に組み合わせた戦争・工作手法)を脅威としながら、真に構造的な不安要因はワシントンの不確実性だと指摘する。欧州は依然として米国の傘の下にあるが、その傘がいつ閉じられるのか分からないという事実も公然と認識されている。
インド・太平洋でも状況は変わらない。報告書は中国が「地域のヘゲモニーを積極的に追求」すると記したが、その文章が投げかけるメッセージは米国の政策が同盟国にこれ以上、信頼を与えられないという点だ。日本、韓国、フィリピンでさえ中国との経済関係を断絶することはできない現実を認める中、米国が提示する選択肢は事実上「中国と決別しろ」との一方的な要求だけということが露呈している。
米国はこれ以上、多者主義(※国連を舞台にした多国間協調主義)と国際法を権力の基盤にはしていない。今やそれらは国益という名前の取り引きの手段へと転換された。2025年8月19日、ホワイトハウスがゼンレンスキー(※ウクライナ大統領)と欧州指導者らと会った後に、トゥルースソーシャル(※トランプ米大統領が設立したSNS)に掲示した二つの文章はその変化の象徴だった。米国は同盟を保護すべき「責任ある対象」ではなく、利益を追求するための「取り引き対象」として取り扱うとのメッセージだった。
ロシアがウクライナで前進しハイブリッド戦争を欧州全域へと拡張する間、米国は条件付きの支援と露骨な強制を行ったり来たりした。2022~2024年、NATO会員国が欧州で購入した軍事装備の51%が米国製だとの統計は、欧州が依然として米国の武器市場に従属させられていること示している。
報告書は欧州が主導する状況へと転換すべきだと指摘する。ドイツのメルツ首相の「大西洋の両岸関係は変わった。(※米国主導の世界秩序に対する)郷愁は欧州の進歩に助けにならない」という最近の発言も欧州自らがこれ以上、米国の保護にだけ頼っていては存立できないとの事実を自覚したことを示している。
インド・太平洋でも矛盾は明らかだ。報告書は中国を地域覇権の追求者と規定し、米国の役割が徐々に一貫性がなく不安定になっていると分析する。中国の経済、軍事力が実質的な影響力を構築したのに反し、米国の安全保障は計算に従って揺れ動く。日本、韓国、フィリピンが防衛費を大幅に増やし多者協力を強化する理由は、単に対中国牽制(けんせい)ではなく、米国に対する信頼喪失だと診断する。2025年4月2日、トランプが署名した相互関税行政命令はその信頼をさらにおとしめてしまった。報告書は地域の国家が米国の対中戦略に便乗しながらも、中国との経済的なつながりを放棄できないジレンマを正確にとらえた。米国がつくった同盟体制がこれ以上、価値共同体ではなく、取り引きのネットワークに転落したことを示す証拠だ。
世界経済を分析する内容はさらに直接的である。米国が自ら設計した自由貿易秩序を事実上、放棄したと評価した。世界貿易機関(WTO)を「不公正だ」と攻撃し、大規模な関税を戦略武器として使用するありようは、経済を規則の領域ではなく権力闘争の場へと転換してしまったものだ。中国の補助金と輸出統制もまた批判対象であるが、報告書の核心的な問題意識は、米国の一方主義が規則を基盤にした秩序の終焉を早めたところにある。
開発と人道的支援の場はさらに凄惨(せいさん)だ。「持続可能な開発目標」
を「グローバリズム」と烙印(らくいん)を押し、国連機関の予算を大幅に削減した米国の決定が、国際システムに最も深い亀裂を生じさせたと指摘した。その空白を湾岸諸国と中国がうめている事実は、伝統的な西側中心モデルがこれ以上、作動しないことを示している。
報告書のすべての分析は一つの真実へと集まる。西側が80年間、主張してきた規則に基盤を置いた国際秩序とは事実上、米国の覇権を正当化する言葉だったという点だ。米国は戦後の秩序を設計する際に、自由と規則を掲げたが、その規則はいつも米国の利益に合致するよう適用された。中国がWTOに加入し急成長すると米国は突然「不公正」を主張し、ロシアがクリミア半島を併合すると、制裁を加えながらも自身の数多い侵略は国際法の外で正当化した。
しかし、その二重基準が今や米国自身を蚕食(さんしょく)している。報告書が語る「ブルドーザー政治」とは事実、米国がこれ以上、世界を意のままに引っぱっていけなくなったという自白である。力の均衡が移動しているとの信号だ。
それにもかかわらず、報告書は非西側国家が構築している新しい秩序を依然として「反応的防御」とだけ切り下げ評価する。しかし、現実にはアフリカ大陸の自由貿易地帯、アセアン中心の協力、ブリックスの拡大など、すでに米国主導の秩序の外で新しい規則が実験されている。欧州でさえ戦略的自律性を語り始めた。米国がつくった世界から抜け出て、各国が主権を中心に再配置される世界へと移動しているのだ。
報告書は結論で「破壊後の再建」を語るが、その再建の主語を明確に提示できていない。欧州が防衛費を増やし産業基盤を強化すればそれでよい式の希望的処方だけを羅列しているに過ぎない。依然として米国が戻ってくることを願う欧州の心理を反映する。しかし、真の再建はそうした方式では成し遂げられない。真の再建は帝国主義の保護秩序ではなく、主権平等と相互尊重の上に打ち立てられた多極的協力だ。
この報告書は韓国社会に特に鋭い質問を投げかける。米国が同盟を取り引き対象とみなす時代に、南北関係を偽の安保や理念という使い物にならない対決構図へと追い込んでいく政策は、果たして誰のためのものなのか。多極化時代の安保と生存は冷戦時とは異ならなければならないのでは。欧州が自主防衛を論議するように、わたしたちは米国の保護という幻想から抜け出て、朝鮮半島の平和を実質的に設計し実行すべきだ。中国とロシア、北朝鮮(※正しくは朝鮮)を無条件に脅威とだけ規定する西側の論理から抜け出て、彼らが提示する多極的秩序を冷静に分析する必要がある。
ミュンヘン安保報告書は「郷愁は戦略ではない」と結論付ける。そのとおりだ。しかも、その郷愁が米国主導の世界秩序に対する郷愁ならば、欧州と同様に韓国もその郷愁から抜け出なければならない。「破壊中」に置かれた世界において、真の平和は帝国的な秩序の残骸を撤去するところから始まる。



