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韓米日三カ国が独島近海で二度の合同軍事演習…北は強い反発、「共に民主党」は自衛隊参加に「国防惨事」と批判/「国民の力」北に対抗し戦術核の再配備を主張

【2022年10月21日】

独島近海で韓米日合同軍事演習 

韓国軍の合同参謀本部は10月6日、韓米日三カ国が同日、朝鮮半島東の東海(日本海)上で朝鮮の核・ミサイルに対応するための訓練を行ったと発表した。合同軍事演習の実施とミサイル発射の応酬が激化する中、韓米日は初めて2週連続で訓練を実施し、3カ国の安保協力を強化、誇示したとした。訓練には韓国のイージス駆逐艦「世宗大王」(7600トン)、米海軍の原子力空母「ロナルド・レーガン」(10万3000トン)やイージス駆逐艦「ベンフォールド」(6900トン)などを含む空母打撃群が参加したほか、日本の海上自衛隊は護衛艦「ちょうかい」(7500トン)を派遣した。

ロナルド・レーガン率いる空母打撃群は母港・横須賀から先月23日に釜山に入港。26日から29日まで韓米海上合同演習を実施し、30日には対潜水艦戦を想定した韓米日の共同訓練に参加した後、日本の海域に移動した。しかし、今月4日に朝鮮が中距離弾道ミサイル(IRBM)を発射すると5日に東海に戻った。朝鮮は韓米海上合同演習前日の先月25日、演習期間中の28、29両日、韓米日共同訓練翌日の今月1日に短距離弾道ミサイル(SRBM)を、4日にIRBMを、6日にはSRBM2発を発射、合同軍事演習に反発し牽制した。

ロナルド・レーガンは2003年に就役し、戦闘攻撃機FA18スーパーホーネットや早期警戒機E2D、電子戦機EA18Gグラウラーなど航空機約90機を搭載。乗組員約5000人で「浮かぶ軍事基地」と呼ばれている。今回の演習海域は独島(日本政府は「竹島」と呼称)から約185キロ離れたところで、先月30日に韓米日が訓練を行った海域と同じ場所。

朝鮮国防省はロナルド・レーガン空母打撃群を中心とする合同軍事演習に対し、極めて挑発的かつ威嚇的なものだとした上で、「米国がわずか数日目に原子力空母打撃集団を朝鮮半島水域に再進入させたという事実、それだけでも地域情勢に及ぼす否定的波長はたいへん大きい」とし、「きわめて懸念を抱かせる現事態発展に対して重大に見ている」と朝鮮中央通信が8日に報じた。

金正恩委員長、軍を現地指導 

朝鮮中央通信は10日、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党総書記)が先月25日から今月9日まで朝鮮軍の戦術核運営部隊、長距離砲兵部隊、空軍飛行隊の訓練を現地指導したと報じた。金委員長は「今も敵たちのあわただしい軍事的行動が感知されている」とし、「米国と南朝鮮(韓国)政権のこうした持続的かつ意図的、無責任な情勢激化行動は、われわれのより大きな反応を誘発するだけだ」と指摘。「敵たちが軍事的威嚇を加える一方で対話や交渉をうんぬんしているが、対話する内容もなく、必要性も感じない」と述べた。これに対し、韓国外交部の当局者は「北が朝鮮半島と域内の緊張を高めるミサイル挑発を直ちに中止することを促す」とし、「韓米合同演習を口実に不法な挑発を正当化することは容認できない」との姿勢を示した。

民主党、自衛隊参加の合同軍事演習を非難

一方、第一野党「共に民主党」の執行部は11日、緊急安保対策会議を開き、韓米日三カ国の合同軍事演習などを巡って与党「国民の力」の外交・安保政策を批判した。李在明(イ・ジェミョン)代表は「尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が独島近海に日本の自衛隊を呼びよせ、合同実戦訓練を強行している」とし、「座視できない国防惨事であり、安保自害行為だ」と激しく批判した。共に民主党の議員は、国民の力トップの鄭鎮碩(チョン・ジンソク)非常対策委員長が、「朝鮮は日本軍の侵略で滅びたのではない」とSNS(交流サイト)で主張したことに対して「親日植民地主義の歴史観があらわになった」と非難した。外交部は「韓国政府の承認なしには日本の自衛隊は韓国の領域に進入できない」との立場を示しながら、高度化する朝鮮の核・ミサイルに効果的に対応するためには、韓米日三カ国の安保協力がさらに重要になるとして、共同訓練の必要性を改めて強調した。

国民の力、戦術核再配備を主張 

また、朝鮮が10日、「戦術核運用部隊」の訓練を実施したと発表したことに関連し、韓国への戦術核再配備などを求める主張が与党から出る中、尹大統領は11日、会見で「様々な意見を傾聴して検討している」と述べた。韓国には冷戦期の1958年から1991年まで米軍の戦術核兵器が配備され、在韓米軍によって運用されていた。米ホワイトハウスのカービー国家安保会議調整官は11日、「われわれの目標は朝鮮半島の完全で検証可能な非核化であり、そのための外交の道があると信じている」と強調し、プライス国務省報道官は「米国のすべての防衛能力を活用する拡大抑止(いわゆる「核の傘」)公約を韓国と確認している」と述べ、戦術核再配備に否定的な立場を示唆した。

韓米日軍事協力の危険性 

大統領選挙の候補時に「有事に自衛隊が朝鮮半島領域に入ることはありうる」と発言し、物議を醸した尹大統領。その姿勢は、米国が主導した独島近海での二度にわたる韓米日三カ国軍事演習として具体的に示された。外交部は自衛隊の参加への批判に対し、「韓国政府の承認なしには~」と弁明しながらも、米国政府と同様に三カ国の安保協力の重要性と共同演習の必要性を平然と強調している。韓米日軍事協力の名の下に、なし崩し的に進む自衛隊の参加は、日本政府の「海外で米軍と共に戦争する国」づくりが朝鮮半島を狙いながら、本格的に実動し始めたことを示す。現在、米国が進める三カ国軍事協力は、実質的な韓米日三角軍事同盟を構築することを目的とするが、そのベクトルは朝鮮半島にとどまらず、米国政府の中国に対する包囲圧迫政策に基づいて台湾有事にも向けられている。

情勢を悪化させる核武装論

戦術核再配備などの韓国核武装論は、北の核・ミサイルの「脅威」を意図的に世論拡大しながら、その対抗策としての必要性を訴えるところから出たものだ。しかし、(評価するものではないが)韓米間ではすでに拡大抑止戦略協議体(EDSCG)などによって拡大抑止の実効性を高められる方策を緊密に協議している。駐韓米軍司令官を兼ねる韓米連合司令官が、韓国軍に対する有事作戦統制権を掌握する状態の下で、核兵器の再配備は朝米・南北関係をさらに複雑にし、朝鮮半島にとどまらない軍事緊張が広がるのは必至だ。

「対決・追従・協力」をやめよ!

尹政権の朝鮮と米日に対する基本的な姿勢は、朝鮮に対する対決、米国に対する追従、日本に対する協力だが、さらに残念なことにすべてに「無条件」が付く。この間の韓米日三カ国軍事協力の進展および自衛隊の参加と関連して与党トップから飛び出た「親日植民地主義歴史観」発言、与党の戦術核再配備の主張において、こうした姿勢が如実にあらわれた。就任当初の人事惨事、先般の外交惨事に続いて、いま国防惨事と呼ばれる一連の事態の原因は、尹政権の「対決・追従・協力」姿勢と世論調査で支持しない理由のトップにあげられる「経験と資質の不足・無能」にある。早くも「退陣!」の声が街頭から響き始める中、支持率20%台にとどまる尹政権が国民の信頼を回復するためには、まずは「対決~」姿勢を改め「不足・無能」を謙虚に認めて補うことだが、尹政権に果たして可能だろうか。