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与党「国民の力」内紛に尹大統領が関与…権代表職務代行が辞任、非常対策委員会体制へ

【2022年8月9日】

大統領室の崔英範(チェ・ヨンボム)広報首席秘書官は7月27日の記者会見で、前日に与党「国民の力」の権性東(クォン・ソンドン)党代表職務代行兼院内代表が、対話アプリで尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領とやり取りした内容が報じられたことについて、「いかなる経緯であれ、私的な対話内容が表に出て、国民やメディアに何らかの誤解を与えたことは望ましいことではない。遺憾だ」と述べた。

権氏は26日の国会出席中に、尹大統領とメッセージをやり取りする様子が報道陣のカメラに捉えられ、その内容が報じられた。尹大統領は「わが党もうまくやっていますね。引き続きこのようにしないと」に続いて「(党)内部に銃を向けていた党代表が交代し、変わりました」とのメッセージを権氏に送った。

国民の力の李俊錫(イ・ジュンソク)代表は、性接待を受けた証拠の隠滅を教唆した疑惑が持たれ、7月に党員資格停止6カ月の懲戒処分を受けた。そのため権氏が党代表職務代行を兼任。権氏は私的な対話内容が公になったのは全面的に自身の過ちだとして、前日のうちに党員と国民に謝罪した。

一方、李代表は、尹大統領と権氏の対話アプリでのやり取りが公になったことに対し、「羊頭狗肉」だとして不快感を示した。陰で悪口を言うことをあてこする意味で羊頭狗肉を使ったとみられる。

この事態について、第一野党「共に民主党」の禹相虎(ウ・サンホ)非常対策委員会委員長は27日、同委員会会議で、「主張してきたように、李代表の除去は尹大統領と側近らとの共同作品であることが確認された」とし、「大統領が党内権力闘争に深く関与するのは望ましくない。いまは民生問題に専念すべき」と批判した。

結局、権氏は31日、代表職務代行を退き、党を非常対策委員会体制に移行させる考えを明らかにした。党執行部は権氏の辞任を受けて協議を開始した。

一方、世論調査会社の韓国ギャラップが29日発表した調査結果によると、尹大統領の支持率は前週より4ポイント下落した28%となった。5月10日の就任後、尹大統領の支持率が30%を下回るのは初めて。対話アプリでやり取りしたメッセージが流出し、与党内のあつれきが深まったことが、不支持の理由に初めて含まれた。国民の力は3月の大統領選で政権交代を実現させたが、尹政権発足からわずか3カ月足らずで非常対策委員会体制に移行する異例の事態を迎えている。

尹大統領自身の発言から、大統領は李氏の懲戒に関し距離を置いていると思われていたが、事実は逆で、尹大統領と側近らが党から李氏を排除し、親尹体制を構築しようとしたことが明らかになった。

党代表代行の権氏と大統領室秘書官の崔氏は共に、尹大統領の私的メッセージが不用意に公開されたことと、その内容が国民とメディアに誤解を与えたことを謝罪したり遺憾表明した。

しかし、問題はメッセージの内容そのものであり、国民が驚いたのは、大統領が発言とは異なり党内内紛に関わっていた事実である。大統領と与党が協力して国政にあたることは何ら問題ではない。ただ、内紛まで引き起こすような行為は当然、慎むべきである。それが、尹大統領が常に強調する「法と原則」の「原則」だ。