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尹錫悦大統領就任演説…「自由」を重ねて強調、「朝鮮の非核化・先非核化」を主張

【2022年5月16日】

尹錫悦(ユン・ソンニョル)新大統領は5月10日、ソウルの国会議事堂前で開かれた就任式で演説。「自由民主主義と市場経済の体制を基盤に国民が真の主人となる国へと再建し、国際社会で責任と役割を果たす国をつくらなければならないという時代的な要求を受けてこの場に立った」と表明。米国を中心としたいわゆる「自由主義陣営」の価値観を重視する姿勢を明確にした。

また「平和は自由と人権の価値を尊重する国際社会との連帯により保障される」と指摘。「一時的に戦争を回避するもろい平和ではなく、自由と繁栄を花開かせる持続可能な平和を追求すべきだ」と語り、文在寅(ムン・ジェイン)政権の「朝鮮半島平和プロセス」政策、さらには米中との均衡(バランス)外交を批判した。

朝鮮に対しては、「核開発を巡っても平和的な解決のため、対話のドアを開いておく」として、「北朝鮮(※正しくは朝鮮、以下同じ)が核開発を中断し、実質的な非核化に転換すれば、国際社会と協力し北の経済と住民の生活の質を画期的に改善できる大胆な計画を準備する」との方針を示した。対日関係には言及しなかった。

国内に関しては「格差の深刻化や社会的葛藤により共同体の結束が揺らぎ、崩れている」と指摘。「真実をゆがめ、多数の力で相手の意見を抑圧する反知性主義が民主主義を危機に陥れている」と述べた。「反知性主義」とは国会で多数を占める野党「共に民主党」を指し、同党への批判的な認識を示した。

就任式には約4万1000人が招かれ、ハリス米副大統領の夫ダグラス・エムホフ氏、岸田首相の特使として林芳正外相、中国の王岐山国家副主席らが参列した。就任式後にはこれまでの大統領府(青瓦台)の敷地が一般開放され、尹大統領は新たな大統領府となる旧国防部庁舎で執務。各国代表との会談に臨んだ。

朴槿恵(パク・クネ)、李明博(イ・ミョンバク)元大統領が就任辞で「自由」に言及したのは1回だけであったが、尹大統領は35回言及し、驚くほどに強調した。そして「自由」に言及しながら、特に「自由の価値」と「自由の価値を尊重する国際社会との連帯」を強調した。具体的な国名はあげていないが、尹大統領が述べた「自由の価値」がバイデン米大統領の主張する「価値同盟」に通じるものであり、「価値同盟」に参与し貢献するために、「国際社会で責任と役割を果たす国」(就任辞では「グローバル・リーダー国家」とも表現)を実現すると明らかにしたものだ。いうまでもなく「価値同盟」は米国の対中国・ロシア包囲網構築戦略の一環である。「新冷戦」と呼ばれる現在の緊張した国際情勢のもとで、韓国が米国との同盟関係にあるとはいえ、「価値同盟」の名のもとに対米協力に偏重することは望ましいことではない。韓米首脳会談を控えていることを考慮しても、就任辞で声高に強調する必要はないだろう。

尹大統領が朝鮮に対して「対話のドアを開いておく」としたことは評価したい。しかし、朝鮮に要求した「朝鮮の非核化」と「先非核化」は誤りだ。南北共同宣言(南北合意)と朝米共同声明で明らかなように、「朝鮮の非核化」ではなく「朝鮮半島の非核化」であり、「先非核化」ではなく「朝鮮半島の非核化と平和体制構築の同時履行」である。このように積み重ねてきた合意の成果を踏まえて、関係改善策を導き出さなければならない。尹大統領は就任辞で南北合意に言及していないが、南北合意の履行を明らかにすることから、「対話のドア」が開く可能性が生まれることを念頭に置くべきだ。