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朝鮮、極超音速ミサイルシステムの成功を最終確認…米政府、対朝鮮制裁強化

【2022年1月21日】

 朝鮮中央通信は1月6日、国防科学院が5日に「極超音速ミサイル」の発射実験を行ったと報じた。ミサイルは内陸部の慈江道から東海(日本海)に向け飛翔し「700キロ先の標的に誤差なく命中した」という。あわせて、昨年1月に開催された朝鮮労働党第8回党大会が提示した国家戦略武力現代化の課業を加速させ、5カ年計画の戦略兵器部門の最優先5大課業のうち最も重要な中核課業を完遂すると、発射実験の背景を明らかにした。同通信は12日、国防科学院が極超音速ミサイルの発射実験を11日にも実施し、金正恩国務委員長(朝鮮労働党総書記)が視察し、金与正党副部長も同行したと報じた。金委員長によるミサイル発射実験の視察が報じられたのは2020年3月以来、約1年10カ月ぶり。「最終発射実験」だったとする今回は、金委員長自らが発射が行われた北部の慈江道を訪れ、このミサイルが完成したことを示した。

 これに対し韓国外交部の崔泳杉報道官は11日の定例会見で、韓米日3カ国の連携を引き続き進めていく方針を明らかにし、朝鮮に対し「朝鮮半島の平和と安定を望む国際社会の期待に応え、対話再開と協力に早期に応じることを促す」と強調した。国連安全保障理事会は11日、緊急会合を開催したが、安保理としての声明などは出なかった。会合は非公開だが、中ロが反対したとみられる。会合前、米国と日本、アルバニア、フランス、アイルランド、英国の6カ国は朝鮮の「弾道ミサイル」(極超音速ミサイル)発射を非難し、「われわれの目標は完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」とする声明を発表した。韓国は南北関係などを考慮して加わらなかったとみられる。ブリンケン米国務長官は12日に、「朝鮮の核・ミサイル問題」に対応するため「あらゆる適切な手段を行使する」と声明を通じて表明した。声明に先立ち、米政府は同日、朝鮮の弾道ミサイル開発に関与した朝鮮国籍者6人とロシア人1人、ロシアの1団体を独自の制裁対象に加えたと発表。この一部を安保理制裁対象にも指定するよう安保理の朝鮮制裁委員会に提案したもようだ。

 朝鮮外務省は14日、朝鮮中央通信を通じて報道官談話を発表し、米国が制裁強化を発表したことに反発し、「米国がこうした対決的な姿勢を取り続けるなら、われわれは一層強力、かつ、はっきりと反応せざるを得ない」と警告した。続けて「米国がわれわれの合法的な自衛権行使を問題視することは、明白な挑発となる」とし、「米行政府が外交と対話を口にしながら、実地においては対朝鮮孤立圧殺政策にしがみついていることを示す」と非難。また「国家防衛力の強化は主権国家の合法的な権利」としながら、この権利を放棄しないと強調した。朝鮮が取り組む新型兵器開発については「国家防衛力を現代化するための活動であり、特定の国や勢力を狙ったものではなく、これにより周辺国の安全に危害を及ぼしたこともまったくない」と主張した。

 朝鮮中央通信は15日、北西部、平安北道の鉄道機動ミサイル連隊が前日に射撃訓練を実施し、戦術誘導弾2発を朝鮮半島東の東海上の設定目標に命中させたと報じた。朝鮮が鉄道車両からのミサイル発射を公開したのは昨年9月に続き2回目。同通信は東海の島に設定した標的にミサイルが命中する写真も公開。島は北東部の咸鏡北道吉州郡舞水端里沖にある無人島とみられる。ミサイルは朝鮮半島を西から東に貫通したことになる。同通信は今回の訓練に関連し、「全国的な鉄道機動ミサイル運営体制を立て直し、われわれ式の鉄道機動ミサイル戦法を完成させるための問題を討議した」とし、全国各地に鉄道機動ミサイル連隊を編成していることを示唆した。列車は機動性に優れるほか、軍事衛星の監視をかいくぐりやすいという利点があるとされる。

 朝鮮は朝鮮労働党第8回党大会(2021年1月)で示した「国防科学発展および兵器システム開発5カ年計画」のなかで、極超音速ミサイルの開発導入を最優先の戦略的課題とした。同ミサイルは音速の5倍以上のスピードを備え機動性にも優れるとされ、各国のミサイル防衛網を現時点で事実上、無力化するものとして、世界中の軍事大国と称される国々の間では、熾烈な開発競争が展開されている。朝鮮の国防科学院は昨年9月28日に、新たに開発した極超音速ミサイル「火星8」型の試射を行った。今年に入り1月5日にも試射を成功させ、それから6日後の11日、金正恩委員長を最終試射の現場に迎えて、同ミサイルシステムの全体的な技術的特性を最終確認した。朝鮮は「国家防衛力の強化は主権国家の合法的な権利」とし、新型兵器開発については「国家防衛力を現代化するための活動であり、特定の国や勢力を狙ったものではなく、これにより周辺国の安全に危害を及ぼしたこともまったくない」と主張している。自らも極超音速ミサイルの開発に集中する米国政府は、朝鮮の同ミサイル試射を「武力示威」「挑発」と断定しながら、朝鮮に新たな制裁措置など国際的な圧力・圧迫を加えることに余念がない。朝鮮に対する制裁措置はまぎれもない敵視行為である。バイデン政権は「朝鮮を敵視していない」「無条件で朝鮮との対話を望む」と朝鮮に提案してきたが、その呼びかけはますます実効性を失っている。