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李大統領「対米交渉では国益を最大重視」…金委員長、トランプ大統領に「非核化要求しなければ対話の可能性」

李大統領「国民との約束守り統合の政治へ」
李在明(イ・ジェミョン)大統領は9月11日に開催した就任100日記者会見で「全国民に仕える『皆の大統領』になるという約束に従い、統合の政治と行政へと進む」とし、「きょうから任期最終日まで『国民が主人の国、共に幸せな大韓民国』をつくる道へまい進する」と述べた。
そして、残りの任期である4年9カ月は「飛躍と成長の時間」とし、「世界を率いる革新経済で『真の成長』を推進し、結実を皆が分かち合う『皆の成長』を成し遂げる」と強調した。
さらに「堂々とした実用外交で世界にそびえ立ち、国民の平和な日常を守り抜く」とし、南北関係改善と朝鮮半島平和のための努力も続けるとの姿勢を示した。
李大統領は「大韓民国号の船長として韓国の堅固な底力を信じ、大胆に進む」とし、国民に声援と協力を呼びかけた。
李政権、「国政課題」確定
政府は9月16日、李大統領の主宰で閣議を開き、先月13日に国会国政企画委員会が提案した「国政運営5カ年計画案」と同案に盛り込まれた123の国政課題を確定した。
国政課題の冒頭には、政治分野の課題である国民主権の実現と大統領の責任強化に向けた憲法改正の推進が掲げられた。
また、大統領の任期を現行の1期5年から4年に短縮して再任を認める大統領再任制や大統領選への決選投票制の導入などを含む権力構造改編策を議論すると明示した。監査院の国会への移管、大統領の拒否権の制限、非常命令や戒厳宣言時の国会による統制権強化なども課題に含まれた。
外交分野については「国益中心の実用外交」に基づき韓米同盟と韓米日3カ国協力を軸に中国・ロシアとの関係改善を図りながら、北朝鮮(※正しくは朝鮮、以下同じ)核問題の解決や経済外交に注力する方針。南北関係では南北基本協定の締結を推進するとした。
李大統領、タイム・ロイター・BBCとインタビュー
李大統領は22日までに、米ロイター通信とのインタビューで、米国との関税問題を可能な限り早期に解決したいとの考えを示した。
一方、李大統領は韓国の3500億ドル(約51兆8000億円)規模の対米投資を巡る商業的な妥当性の保障問題で両国に意見の相違があるとして、「(韓米の)通貨スワップ(交換)なしで米国が要求する方式で3500億ドルを全額現金で投資すれば、韓国は1997年の金融危機のような状況に直面するだろう」と懸念を示した。また、18日に公開された米「タイム」誌とのインタビューでは「この対米投資に同意していたら弾劾されていただろう」と語った。
李大統領は就任100日記者会見の際に、先月の訪米で合意文書に署名しなかった理由を問われ、「米国の一方的な関税増額に対し最大限の防御をするための場だった」として、「利益にならない交渉になぜサインするのか」と述べている。
一方、李大統領は22日に放送された英BBCとのインタビューで、北朝鮮の非核化問題の解決について、トランプ米大統領と金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党総書記)が北朝鮮の核兵器を撤去する代わりに、当分の間は核兵器の生産を凍結する内容の合意をすれば受け入れられるとの認識を示した。李大統領はすでに「凍結→縮小→非核化」の3段階構想を示している。
李大統領は「われわれが非核化という長期的な目標を放棄しない限り、北に核とミサイル開発を中止させることには明白なメリットがあると信じている」と強調した。
李大統領、国連で演説
李大統領は23日(現地時間)、国連総会で就任後初となる一般討論演説を行った。7番目に登場した李大統領は「交流(Exchange)、関係の正常化(Normalization)、非核化(Denuclearization)、すなわち『END』を軸とする包括的な対話で、朝鮮半島での敵対と対決の時代を終わらせるべき」と訴えた。
一方、李大統領はこの日の演説で、「新たな大韓民国が国際社会に完全に復帰したことを堂々と宣言する」と述べた。昨年末の前政権の非常戒厳宣言による混乱から回復したことをアピールし、「親衛クーデター(上からのクーデター)さえも、民主主義と平和を強く願う韓国の強烈な意思をくじくことはできなかった」と評した。
金委員長、最高人民会議で対米・対韓姿勢を言明
朝鮮中央通信は、最高人民会議第14期第13回会議が20~21日、平壌の万寿台議事堂で開催され、金委員長が重要な演説をしたと22日に伝えた。
金委員長は米国と韓国が主張する朝鮮の非核化について言及。朝鮮の核保有が国内の最高法に明記されていることについて触れ、違憲行為にあたる非核化は絶対にありえないと断言した。
米国については「核を放棄させて武装解除させた後に米国が何をするか、すでによく知っている。われわれは決して核を手放さない」と述べ、非核化をめぐる交渉には応じないと強調した。一方で「米国が非核化の執念を捨てて真の平和共存を望むのであれば、われわれも向き合えない理由はない」と述べ、米国が非核化を要求しなければ、対話に応じる可能性があるとの考えを示した。さらに、1期目のトランプ大統領との首脳会談を踏まえ、「わたしはいまも個人的には良い思い出を持っている」と述べた。
韓国については「一切、相手にしないことを明確にする」と対話を拒否する考えを改めて示した。統一は断じて不要だと強調し、「われわれは朝鮮と韓国が国境を隔てた異質で、決して一つになりえない2国家であることを国法で固定化する」と述べた。
韓国大統領室は22日、同演説を受けて朝米対話を支援するとの意向を示した。ただ、金委員長が非核化の意志は全くないと述べたことについては、「(韓国政府は)核のない朝鮮半島の実現へ努力する」との立場を強調した。
主権を発揮した対米外交を李政権に望む
李大統領は就任100日記者会見で対米経済交渉について「利益にならない交渉になぜサインするのか」と述べ、「国益重視の実用外交」を推進することを改めて強調した。国民主権政府を自任する李政権は、トランプ政権による同盟国・韓国に対する経済収奪と安保威嚇の暴挙を決して許してはならず、当然屈してはならない。そのためには、李政権が国民の強力な支持と声援を背にして堂々と外交交渉に臨み、国民主権の総意を国家主権として、国の自主権として全面的に発揮することが極めて重要だ。
また、李大統領は100日記者会見でも、国連演説でも南北関係の改善と朝鮮半島の平和実現のために努力を続けると強調した。
しかし、8月の韓米合同軍事演習「乙支フリーダムシールド」に続けて9月中旬に韓米演習「アイアンメイス」と韓米日演習「フリーダムエッジ」を朝鮮の反発を無視して強行していては、朝鮮に対する説得力は全くない。
最高人民会議における金委員長の演説が、南北関係改善の前途は相当に厳しいことを示す中、李政権が南北関係の改善と朝鮮半島の平和へと進もうとするならば、対北3原則(北の体制を尊重する、吸収統一を追求しない、敵対行為をしない)をスローガンの次元ではなく、名実ともに実践することが最低限必要だ。
さらに非核化についていえば、最終的な「朝鮮半島(※朝鮮ではない)の非核化」目標を保持することは重要だが、「朝鮮の非核化」を一方的に掲げて朝鮮に突きつけても何ら実現の可能性はない。李大統領の3段階構想も拒絶された。米国とその同盟国が朝鮮に対し核・軍事脅威を加えながら、朝鮮の安全保障を著しく損なってきたために、朝鮮が核武装の道を選んだことを米国などは認識すべきだ。
米国が真に朝鮮との関係改善を望むならば、朝鮮側の提案ともいえる金委員長の発言「米国が非核化の執念を捨てて真の平和共存を望むのであれば、われわれも向き合えない理由はない」を真剣に受け止めるべきだろう。そうして朝米関係が進展すれば、朝鮮の姿勢にも変化の可能性が生まれ、南北関係改善の糸口も見えてくるはずだ。
(2025年9月24日)
※写真-国連総会で演説する李在明大統領