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情勢解説

「南北の信頼回復」のために韓米合同軍事演習の中止を

李政権「南北の信頼回復が重要」

大統領室の姜由楨(カン・ユジョン)報道官は7月29日の記者会見で、朝鮮労働党の金与正(キム・ヨジョン)副部長が28日に対韓談話、29日に対米談話を発表したことについて、「金副部長が2日連続で立場を発表したのは非常に異例ではないか」とした上で、「長い間、特に前政権で対決的かつ敵対的な関係が形成されていた」とし、「そのため(大統領室内部では)相互信頼の回復が先だという反応が出ている」と伝えた。その上で、「戦わないことより『戦う必要すらない平和状態』が最も有益」とし、敵対することも戦争もない安全な朝鮮半島をつくることが李在明(イ・ジェミョン)政権の立場だと強調した。李大統領は28日、鄭東泳(チョン・ドンヨン)統一部長官に任命状を手渡した際、談話について「平和的な雰囲気の中で南北の信頼を回復することが重要だ」と発言。鄭長官は同日、記者団に対し、来月に予定されている韓米合同軍事演習「乙支フリーダムシールド」の規模縮小などの調整について、李大統領に建議する考えがあると述べた。金与正氏が28日の談話で同演習に触れているとし、「これが(李政権の対北政策の)基準になるのではないか」と述べた。

統一部、北朝鮮住民との接触を前面容認

鄭長官は31日、民間による北朝鮮(※正しくは朝鮮、以下同じ)住民との接触を制限している指針を廃止したと明らかにした。「国民の自由な接触が相互理解を生み、相互理解が相互共存につながる」とし、李政権の方針を反映した措置だと表明した。8月4日には南北協力民間団体協議会の関係者と面会し、北朝鮮への人道支援について、北朝鮮との接触が実現すれば南北協力基金からの支援を再開する方針を示した。

国防部、対北宣伝用拡声器を撤去

国防部は8月4日、対北宣伝放送のため南北軍事境界線付近に設置した拡声器の撤去を始めたと明らかにした。同部は「軍の対応体制に影響がない範囲内で南北の緊張緩和に役立つ実質的な措置を実施する」と説明した。5日に撤去が完了した。

韓国、米国との関税交渉で合意

トランプ米大統領は7月30日、自身のSNSで韓国との関税交渉で合意したと発表した。米国が韓国にかける相互関税の税率を25%から15%に下げる代わりに、韓国は3500億ドル(約51兆5000億円)相当の対米投資や1000億ドル相当の米国産液化天然ガス(LNG)などエネルギーを購入する。韓国大統領室と交渉団は31日、交渉結果を発表する場で、トランプ氏が「(韓国が)農産物などを含む米国産製品を受け入れることで合意した」とSNSに書き込んだことについて「コメと牛肉市場の追加開放は行わない」と明らかにした。李大統領は「米国の関税を主要対米輸出国より低いか同じ水準に合わせ、競争できる環境を整えた」などとコメントした。また、トランプ氏は「2週間以内に李大統領が会談のためホワイトハウスを訪れる」とした。

李大統領は軍事演習中止の英断を

金与正氏は28日の談話で、韓国政府の対朝鮮融和政策に対し否定的立場を表明したのに続き、29日も「朝米首脳の個人的な関係は悪くない」としながらも非核化交渉には応じない考えを示す談話を発表した。こうした内容はこれまでの主張を踏襲しており、政権が交代しても大きな変化はないと改めて強調したものだ。ただ、朝米接触については「核を保有する二つの国が対立的な方向に進むことは、決して互いに利益にならないという事実を認める最低限の判断力はあるはずであり、そのような新しい思考に基づき別の接触を模索してみるのが良い」と述べ、条件付きの可能性を示唆した。朝鮮が否定的あるいは消極的だとしても、南北関係と朝米関係を改善しようとすれば、根本的な障害である対朝鮮敵視政策、その核心である韓米合同軍事演習、合同軍事演習を遂行する韓米軍事同盟が問題となっていることを韓米両政府は認識しなければならない。そうした観点から鄭統一部長官の指摘は正しい。「平和的な雰囲気の中で南北の信頼を回復することが重要」とする李大統領が信頼回復のための布石を次々に打ち出していることを評価した上で、合同軍事演習の中止が2018年の南北・朝米首脳会談の実現を後押ししたことを想起しながら、信頼回復の本格的な歩みを始めるために李大統領に韓米合同軍事演習中止の英断を望みたい。そして、韓国の主権を前面に立てた対米交渉の姿勢、これこそが安保圧迫と関税攻撃を加えるトランプ政権に対抗する最善の方策であることを強調したい。主権重視の外交こそが李大統領が主張する「国益中心の実用外交」でなければならない。

※写真-拡声器を撤去する韓国軍

(2025年8月6日)