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情勢レポート

朝鮮の連続するミサイル発射をどう見るか

【2021年9月30日】

1 ミサイル発射の背景

朝鮮は9月になって立て続けに3種類のミサイルを発射しましたが、その背景として考えられるのは二つです。
まず第1に、朝鮮労働党の決定に基づく「自衛のための国防力強化」の実践です。すでに今年1月の党大会で国防力強化方針の具体的な内容について詳細に語られていました。それらを方針通りに実践しているということです。
第2に、朝鮮の対米・対南政策方針に基づくものです。これも朝鮮労働党の決定として明らかにされていますが「強対強、善対善」の原則(強硬策には強硬策で対応し善意の政策には善意を持って対応する)に基づいたものです。8月に北側がくり返し中止を要求したにもかかわらず韓米両国は韓米合同軍事演習を強行しました。それに対する対抗措置です。

2 ミサイル発射の内容

1)巡航ミサイル発射実験(9月11日・12日)

9月11日と12日に巡航ミサイルの発射実験を行いました。2時間以上飛行し、1500キロ先の標的に命中したと発表されました。1500キロということは日本全土が射程距離に入ったことを意味します。

もう一つ重要なことは、このミサイルの発射実験について、私たちは(世界は)朝鮮中央通信の9月13日の報道で初めて知ったということです。アメリカ政府も韓国政府も日本政府も全く察知できなかったということです。いつ発射されたのか、どこから発射されたのか、どこに着弾したのか、まったくわからなかったのです。在日米軍基地に対する報復攻撃能力が完全に証明されました。

2)貨物車両から弾道ミサイルを発射(9月15日)

続いて9月15日に、貨物車両から弾道ミサイルが発射されました。朝鮮側の公式報道によると鉄道機動ミサイル連隊によるミサイル発射訓練で800キロ先の標的に正確に命中したとしています。

朝鮮は国土の80%が山岳地帯です。貨物運送の90%、旅客の60%は鉄道を利用する世界に名だたる鉄道大国です。その貨物車両から瞬時にミサイルが発射されたのです。この神出鬼没のミサイルからの攻撃を防御するのは至難の業と言えるでしょう。

また注目すべきは、「ミサイル発射実験」と言わずに「ミサイル発射訓練」と表現していることです。すでに実験段階ではなく実戦配備されていることを意味しています。

3)極超音速ミサイルの発射実験

マッハ5という超高速で高度30キロ地点を飛行し200キロ先の標的に命中したとされています。韓国の最南部まで1分、地球上のどこであれ1時間以内に打撃可能で、極超音速ミサイルは迎撃が不可能だと言われています。極音速ミサイルを現在保有しているのは中国とロシアだけで、アメリカも保有していません。朝鮮が3番目の保有国になります。まだ飛距離は200キロと短いですが、順次飛距離を伸ばして、やがては日本とグアム島も射程圏内に収めるようになるものと思われます。

4)巡航ミサイルと弾道ミサイルの違い

①巡航ミサイル

巡航ミサイルは、先端に爆弾を装着した小型の飛行機のようなもので、地上50メートルから100メートルぐらいの超低空を飛行するのでレーダーにとらえられにくいという特徴を持っています。またGPSなどによる誘導機能を有しているので命中精度は非常に高いという利点も持っています。速度は音速以下で亜音速と言われています。

②弾道ミサイル

弾道ミサイルは、ロケットの先端に爆弾を装着して上空高く打ち上げ て放物線を描くように標的に着弾します。上空に行くほど空気抵抗が少なく宇宙空間では全く空気抵抗がありませんから非常に高速です。落下するときはますます加速されるので非常に速度が速いという利点と遠くまで飛ばせるという利点があります。しかし遠くに行くほど命中精度は低下するので核兵器など大量破壊兵器に利用されます。また、放物線を描いて飛行するので発射地点と発射角度が把握されれば迎撃されやすいという弱点もあります。

※上の図の一番下の緑の線の解説に「極超音速巡航ミサイル」とありますが「巡航ミサイルの間違いです。巡航ミサイルは亜音速(音速以下)です。

3 今後の展望

朝鮮政府は、自分たちが行う韓米合同軍事演習や軍備の増強は防衛目的だと正当化し、朝鮮が行う軍事行動は挑発だと非難する2重基準をやめるべきだと主張しています。韓米両国の対応が注目されますが、現時点では文在寅政権もバイデン政権も慎重かつ冷静に対応しています。

数年前なら「許しがたい挑発」などと非難し「制裁決議を行うべき」などと大騒ぎしていました。ちなみに朝中・朝ロ関係は完全に修復したので、もしアメリカが制裁決議を呼び掛けたとしても中国・ロシアの反対で朝鮮に対する制裁決議は、今後、実現することはないでしょう。世界は大きく変わりました。

9月29日の最高人民会議で金正恩委員長は10月初旬に南北通信連絡線を復元すると表明しました。間もなく南北対話が再開されるものと思われます。