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尹大統領「戒厳令宣布」~国会「解除可決」…国民的退陣闘争の高揚必至、尹錫悦の終わりの始まり

【2024年12月6日】

尹大統領「戒厳令宣布」~国会「解除可決」

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は12月3日夜、非常戒厳令を宣布した。尹大統領は緊急談話を発表し、「従北勢力を撲滅し、自由憲政秩序を守るため非常戒厳令を宣布する」と述べた。また、国会で多数を握る野党が来年度の予算案の削除を求め、閣僚や検事の弾劾訴追案を提出して国政をまひさせたとし、「今の国会は犯罪者集団の巣窟になり、立法独裁で国の司法行政システムをまひさせ、自由民主主義体制の転覆を図っている」と断じた。

韓国で非常戒厳令が宣布されるのは1979年以来、45年ぶりとなる。

非常戒厳令の宣布により、戒厳司令官に朴安洙(パク・アンス)陸軍参謀総長が任命され、政治活動の禁止などを盛り込んだ布告令が発表された。

戒厳軍は統制・封鎖のために国会に入ろうとし、抵抗する国会議員の補佐官らとの衝突が起きた。

国会(定数300)は4日午前0時50分ごろに本会議を開き、非常戒厳令の解除要求決議案を上程。同1時ごろに在籍議員190人、賛成190人で可決した。与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表に近い議員18人と野党議員172人が賛成した。

国会は午前2時ごろ、大統領と国防部長官に戒厳令解除要求通知を送った。

韓国の憲法第77条は「国会が在籍議員過半数の賛成で戒厳の解除を要求した際、大統領はこれを解除しなければならない」と定めている。戒厳法第11条は「国会が戒厳の解除を要求した場合は滞りなく戒厳を解除し、公告しなければならない」とし、「大統領が戒厳を解除する場合は閣議の審議を経なければならない」と規定している。

韓代表は、国会が非常戒厳令の解除要求案を可決したことについて、「国会の決定により、違憲・違法な戒厳宣布は効力を喪失した」と述べた。

 第1野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は、閣議決定も経ていない非常戒厳令は手続き上も明白に違法であり、憲法にも反していると指摘。「戒厳令宣言に基づく大統領のすべての命令は違憲、無効、違法」と強調した。

尹大統領は4日早朝、宣布してから約6時間を経て非常戒厳令宣布を解除した。

尹大統領は談話で、「前日11時をもって、国家の本質的機能をまひさせ、自由民主主義の憲政秩序を崩壊させようとする反国家勢力に対抗し、決然とした救国の意志で非常戒厳令を宣布した」とした上で、「しかし、国会の戒厳解除の要求があり、戒厳事務に投入した軍を撤収させた」と述べた。

政府は尹大統領の談話発表以後、閣議を開き、「戒厳令解除案」を決定した。

 共に民主党は国会で緊急議員総会を開いた後、決議文を発表、尹大統領に対し即刻辞任(退陣)するよう求め、辞任しなければ弾劾を進めるとの立場を示した。

 韓代表は国会で記者団に対し、尹大統領が状況を詳細に説明し、戒厳令を建議した金龍顕(キム・ヨンヒョン)国防部長官を即時解任するなど関係者の責任を問うよう求めた。

大統領室では室長、首席秘書官が一斉に辞意を表明した。

6野党、弾劾訴追案を提出

共に民主党と祖国革新党、改革新党、進歩党、基本所得党、社会民主党の6野党は4日午後、尹大統領の弾劾訴追案を国会に提出した。野党は戒厳令宣布が「憲法や法律に明白に違反する」と主張。弾劾訴追案の発議には、国民の力を除く国会議員191人全員が参加した。

共に民主党などは5日の国会本会議で弾劾訴追案を報告し、6~7日に採決する計画。弾劾訴追案の可決には国会の在籍議員300人のうち3分の2以上の賛成が必要。韓代表は5日、弾劾訴追案に反対の党方針を示した。

広がる退陣要求の声

3日夜の非常戒厳令宣布の直後から国会前には市民が結集し、戒厳令宣布に抗議し野党を応援した。4日からは全国の主要都市で尹政権の退陣を求める集会が相次いで開かれている。民主労総は退陣まで無期限ストを展開すると発表した。7日にはソウル光化門で退陣要求3次総決起が開催される。

尹錫悦の終わりが始まった

尹大統領は戒厳令宣布の理由について、「共に民主党の立法独裁」「従北反国家勢力の撲滅」「自由憲政秩序の守護」をあげた。しかし、こうした主張に共感し支持する国民がどれだけいるだろうか。4月総選挙で厳しく審判されても、無能無責任・独断専横・民生破たん・民主主義否定・平和破壊・対米従属・対日屈従・対北対決を平然と続け、ついには支持率20%を切る大統領の声に耳を傾ける者はほとんどいない。

尹大統領は「体制転覆を図る反国家勢力の蠢動」を非難した。しかし、「体制転覆を図る反国家勢力」は内乱を企図した尹大統領自身であり、これは弾劾訴追の要件となるものだ。また、「自由憲政秩序の守護」について言えば、憲政秩序を破壊してきたのは拒否権行使を乱発した尹大統領自身だ。

金国防長官の建議を受けた尹大統領は大統領室とも協議せず閣議にもかけず、ほぼ独断で戒厳令宣布を決定した。結果、与党代表らは反旗を翻し、大統領室の高官は辞意を表明するに至った。尹大統領はすでに正常な判断ができず、側近にも見放され、国政運営どころではないと判断せざるを得ない。

国会は国民の支持に応えて、戒厳令宣布という尹大統領の独断と専横の極致から民主主義の危機を救った。連綿と続いてきた韓国民主化運動の成果が民主共和国の基盤となり、戒厳令を許さない状況をつくり出したと評価してよいだろう。

尹錫悦政権退陣運動本部をはじめとする市民社会団体および野党と弾劾国会議員連帯による院内外にわたる反尹戦線の構築、総決起をはじめとする退陣広場の広がり、そして退陣国民投票の展開や各界の時局宣言の発表などが相乗効果を生み、尹大統領を追い詰めてきたのは事実である。窮地に陥った尹大統領はなりふりかまわず戒厳令宣布という強硬手段に及んだ。

今回の戒厳令宣布の暴挙に国民は心底激怒し、全国で退陣要求の声が渦巻いている。尹大統領に期待するものは何もない。3次総決起は、いままでにはない退陣要求の大きなうねりをつくり出し、尹錫悦をさらに追い込んでいくのは間違いない。国民に勝てる政権はない。尹錫悦の終わりが本格的に始まった。

※写真-国会に突入しようとする戒厳軍と阻止する議員補佐官ら