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尹大統領、「8・15統一ドクトリン」発表…「統一ドクトリン」ではなく「対決ドクトリン」

【2024年8月23日】

尹大統領、「光復節」式典で「8・15統一ドクトリン」発表

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は8月15日、ソウル世宗文化会館で開催された日本の植民地支配からの解放記念日「光復節」の記念式典で演説し、「分断体制が続く限り光復(解放)は未完成」として、「朝鮮半島全体に自由・民主・統一国家がつくられる日に完全な光復が実現される」と述べた。

尹大統領は南北統一に向けた三つのビジョンと三つの推進戦略を提示した。三つのビジョンとしては「自由と安全が保障される幸せな国」、「創意と革新で飛躍する強くて豊かな国」、「世界平和と繁栄に寄与する国」を挙げた。三つの戦略としては「自由統一を推進する自由の価値観と力の培養」「北朝鮮(※正しくは朝鮮、以下同じ)住民の自由統一に対する熱望促進」「自由統一に対する国際社会の支持確保」を示した。ここに統一計画の活性化など七つの統一推進案を加えた構想「8・15統一ドクトリン」(※ドクトリンとは政治・外交・軍事などにおける基本原則。教理、教義)を発表した。

また、北朝鮮住民の変化のため、「情報接近権」を拡大すると強調。「多くの脱北者は韓国のラジオ放送やテレビを通じ北の政権の偽りの宣伝・扇動に気付いたと証言している」とし、「北の住民が自由の価値に目覚めるようにすることも重要だ」と訴えた。そのうえで北朝鮮の人権に関する国際会議と北朝鮮自由人権ファンドの創設を推進する考えを示した。

事実上断絶している南北対話のため、実務者が参加する「対話協議体」の設置も提案した。尹大統領は「(協議体で)緊張緩和を含む経済協力、人的往来、文化交流、災害と気候変動への対応までいかなる問題も扱える」と表明。離散家族や国軍捕虜、拉致被害者などの人道問題も協議できると説明。「非核化の一歩を踏み出すだけでも政治的、経済的な協力を始める」と言明した。

また、「自由統一に対する国際社会の支持をけん引するため一層努力する」とし、有志国と「国際朝鮮半島フォーラム」を創設する方針を明らかにした。 

尹大統領の演説に対し、与党「国民の力」が「統一ドクトリン」構想を高く評価する一方、野党は、「論評する意味すら見つからない最悪の演説」(「共に民主党」)、「尹大統領はニューライトや親日派の宿主でなく本体」(「祖国革新党」)と批判した。(※ニューライトは日本による植民地支配を美化する新保守派)

独立運動関連団体、政府に抗議し別に式典開催

 一方、韓国の独立功労者と遺族でつくる「光復会」などの独立運動関連団体は、ソウル孝昌公園内の白凡記念館で別に「光復節」記念式典を開催した。光復節の式典が政府主催と独立運動関連団体主催に分かれて開催されたのは今回が初めて。

独立運動関連団体は、独立運動に関する遺物や資料を保存・展示する独立記念館(忠清南道天安市)の館長人事を巡り、ニューライト系とされる金亨錫(キム・ヒョンソク)氏が任命されたことに強く反発した。

団体側によるこの日の式典は、光復会を含む37団体からなる「独立運動団体連合」と25の団体で構成された「抗日独立先烈宣揚団体連合」が共同で主管。共に民主党の朴贊大(パク・チャンデ)院内代表、祖国革新党の曺国(チョ・グク)代表ら野党関係者約100人も出席した。

光復会の李鍾贊(イ・ジョンチャン)会長は演説で「近ごろ真実に対する歪曲と親日史観に染まった低劣な歴史認識が幅をきかせ、韓国社会を混乱に陥れている」と述べ、金氏の任命に抗議するために式典を別に開催したと説明した。李氏は「光復の誇らしい歴史をこえてわれわれが進む挑戦は朝鮮民族統一の道」として、自主、平和、民主の原則に基づき朝鮮半島の恒久的平和と共同繁栄を築かなければならないと強調した。

野党と「韓日歴史正義平和行動」、「自主統一平和連帯」などの市民社会団体は光復節前日の14日、国会本館前で「8・15光復79年 尹錫悦政権の屈辱外交糾弾! 国会・市民社会1000人宣言 記者会見」を開催。尹政権の歴史認識と対日姿勢を糾弾し、金氏の任命に抗議した。また各界の市民社会団体は光復節を迎えて一斉に声明や論評を発表し、奪われた主権を取り戻し新しい国をつくるための独立運動家の熱望を継承するとし、尹政権の反民族的姿勢を厳しく批判した。

「統一ドクトリン」ではなく「対決ドクトリン」

8月15日光復節は、日本帝国主義による植民地統治の民族的苦難を思い起こし、独立のために日帝に立ち向かった民族烈士の功を立場をこえて称える日である。しかし今年はそうではなかった。その背景には尹政権の歴史歪曲と対日屈辱外交があり、直接の原因は独立記念館長にニューライト人士を強行任命するという反民族的行為である。

尹大統領の恣意的な人事については、労働者の権利を否定する雇用労働部長官候補、放送メディアの掌握を狙った放送通信委員会委員長の任命、差別禁止条約に反対する人権委員会委員長候補、自身と金建希夫人に関連した諸疑惑の捜査に備えた検察総長の抜擢、海兵隊員殉職事件への外圧疑惑が取りざたされる大統領警護室長の国防長官への転任などのケースが指摘されている。その職責に適格でない人物や親尹人士を重用したことが、多くの論難を巻き起こしているが、尹大統領の独善と専横に変化はない。

尹大統領の「光復節」演説では例年触れてきた対日関係への言及はなく、日本軍「慰安婦」や強制動員被害者への慰労もなく、日本政府に対して謝罪と反省を求めることもなかった。「未来志向の韓日関係」の名の下に、歴史問題を完全に封印した。

朝鮮の住民に自由な韓国の姿を知らせ、統一への希望を抱かせる新たな推進戦略だとする「統一ドクトリン」は、「自由」を全面に打ち出した吸収統一論に過ぎない。北側住民の変化のために「情報接近権」を拡大するとは、つまり「対北宣伝ビラ散布」と「対北拡声器宣伝」をさらに強化拡大するということであり、それが南北間の葛藤と対決を煽り、軍事緊張を激化させるだけなのは明らかだ。平素、「吸収統一」だ「体制統一」だと対北敵視政策を繰り広げてきた尹政権が急に「統一ドクトリン」を口にしても、朝鮮は応じない。朝鮮は対南路線の転換の中で「『吸収統一』『体制統一』を国策とする韓国とは統一が実現できない」と明言している。

尹大統領の「統一ドクトリン」は、結局は「統一」の外皮をまとった「対決ドクトリン」と言わざるを得ない。

※写真-光復節記念式典で演説する尹錫悦大統領