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朝鮮とロシア、「包括的戦略パートナーシップ条約」締結で実質的同盟関係…韓米日、朝ロを糾弾・懸念

【2024年6月28日】

朝ロ、パートナーシップ条約を締結

金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党総書記)は24年ぶりに訪朝したロシアのプーチン大統領と6月19日、平壌で会談し、両者は「包括的戦略パートナーシップ条約(パートナーシップ条約)」に署名した。

 朝鮮中央通信は20日、同条約の全文を報じた。23条からなる条約の第4条には「一方が個別国または複数の国から武力侵攻を受け戦争状態になった場合、国連憲章第51条と朝鮮民主主義人民共和国とロシア連邦の法に基づき、直ちに自国が保有するあらゆる手段を用いて軍事的およびその他の援助を提供する」との内容が盛り込まれている。この条項は、1961年に朝鮮とソ連が締結し、1996年に失効した「友好協力相互援助条約」第1条とほぼ同じ内容。両国関係は善隣友好関係から包括的戦略パートナー関係に格上げされ、両国間の実質的な同盟関係が28年ぶりに復活したとみられる。第4条で例示されている国連憲章第51条は、加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には個別的または集団的自衛権を認める内容となっている。ロシアのラブロフ外相は、これを根拠に条項には問題がないと主張した。

また、朝鮮とロシアは一方の国に「武力侵略行為が行われる直接的な脅威」が発生した場合は、脅威を除去するための協力措置に合意する目的で、交渉窓口を「遅滞なく」稼働させることを第3条で定めた。第8条には「戦争を防ぎ、地域的・国際的平和と安全を保障するための防衛能力を強化する目的の下、共同措置を取るための制度を設ける」と記された。

朝鮮とロシアはこのほか、高官級の会談など対話と交渉を通じて2国間問題と国際問題に関して意見交換し、「国際舞台での共同補助と協力」を強化することを決めた。さらに、「全地球的な戦略的安定と公正で平等な新しい国際秩序の確立を目指し、緊密な意思疎通を維持し、戦略戦術的協力を強化」することで一致した。

条約の効力は無期限で、効力停止を望む場合は相手側に書面で通知すれば1年後に効力が停止される。

会談後の共同記者発表で金正恩氏は「両国関係は同盟関係という新たな高いレベルに引き上げられた」と表明した上で、「両国の共通の利益に合致し、地域と世界の平和と安全保障環境を守るとともに、強力な国家建設を目指す両国指導部の構想と人民の願いを実現できる法的基盤が整った」とし、政治や経済、文化、軍事など多方面で両国の協力が拡大されると強調した。

プーチン氏も、ロシアと朝鮮が画期的な条約を結び、関係を新たなレベルに引き上げることになったと評価した上で、「新条約を土台に朝鮮と軍事分野で協力し、軍事技術協力を発展させることも排除しない」とし、軍事的な接近を強化する意思を明らかにした。

両氏は両国の代表団を交えた形式の会談を1時間半以上、1対1の会談をおよそ2時間行った。プーチン氏は次回の首脳会談をモスクワで開くことを提案した。

韓米日外相、電話協議

趙兌烈(チョ・テヨル)外交部長官は訪問先の米ニューヨークで20日夜(現地時間)、ブリンケン米国務長官、日本の上川陽子外相とそれぞれ電話会談を行い、先の朝ロ首脳会談への対応を協議した。外交部が21日、発表した。

 同部によると趙氏はブリンケン・上川両氏との協議で、朝鮮とロシアがパートナーシップ条約を締結し、軍事・経済協力を強化することは韓米・韓日の安全保障に対する重大な脅威であり、朝鮮半島と域内の平和・安定を深刻に脅かすとの認識で一致。韓米は「強く糾弾」し、韓日は「厳重な懸念」を表明した。

趙氏は朝鮮の軍事力増強に直接・間接的に加勢するいかなる協力も国連安全保障理事会決議への明白な違反だと強調し、韓国政府が前日に発表した対朝鮮独自制裁や対ロシア輸出規制品目の追加指定、ウクライナへの兵器支援再検討などの対応措置を説明した。また、国際社会の断固たる対応を主導するため緊密に協力していくことを呼びかけた。プーチン大統領は訪問先のベトナム・ハノイで、韓国政府がウクライナに兵器を供与すれば「非常に大きなミス」になると警告した

ブリンケン氏は、米国は韓国側が取る安保上の脅威に対する正当な措置を積極的に支持するとして、堅固な韓米同盟に基づき断固とした対応を取る考えを表明。米国も朝ロの脅威に対応するため、多様な方策を積極的に検討すると述べた。

両氏は引き続き関連動向を注視するとともに、朝鮮の挑発や緊張を高める行為に対し堅固な韓米同盟に基づいて協力を続け、朝鮮の核・ミサイルの脅威を無力化する韓米同盟の拡大抑止力と韓米日安保協力を強化するために努力することを確認した。

趙氏と上川氏は朝鮮の核・ミサイルと朝ロの軍事協力に効果的に対応するため、米国を交えた3カ国の安保協力を強化することで一致した。

尹政権は対決政策をやめろ

朝鮮とロシアは「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結し、事実上の軍事同盟関係を構築した。朝鮮半島情勢は大きく変化している。しかし韓米日3カ国は猛反発し、国連安保理決議を盾に朝ロを声高に糾弾し圧迫を継続している。

一般的に軍事同盟や軍事ブロックが対決を煽り平和に寄与するものでないのは自明だ。しかし、韓米日3カ国が韓米・米日軍事同盟と韓米日の軍事協力を棚に上げて、朝ロの軍事同盟化を糾弾し、さらには中国を加えた軍事ブロックの形成を警戒するのは典型的な二重基準といわざるを得ない。

現在、ロシアはウクライナ戦争により米国を軸とするいわゆる西側と対峙しており、朝鮮はといえば、韓米の拡大核抑止戦略と韓米日軍事協力の強化などによる軍事的圧迫を常に受け、平和的生存権が著しく脅かされている。朝ロはパートナーシップ条約を結び決定的に関係を強化することで、こうした状況を打破しようとしたとみることができる。

プーチン大統領は「条約上の軍事的援助は軍事的な攻撃があった際に適用されるため、韓国は懸念しなくてもいい」として、「わたしが知る限りでは韓国は朝鮮を侵攻する計画がないため、ロ朝の協力を恐れなくてもいい」と述べた。政権崩壊と吸収統一を掲げて朝鮮との軍事対決に熱中する尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権にとっては耳の痛い「正論」だ。尹政権に変化する情勢に対応する考えがあるならば、まずは対決政策を放棄することから始めなければならない。

※写真-朝ロ首脳会談(6・19 平壌・錦繍山迎賓館)