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「戦争と平和協定、対北敵視政策の存廃にかかっている」

【2024年3月22日】

韓国では統一運動団体を中心に、朝鮮の対南政策の転換にどのように対応するのか、議論が進行すると共に、具体的な実践も始まっている。こうした中、イ・ジョンフン統一時代研究所(韓国進歩連帯の付設研究所)研究員は民プラス(3月5日)に発表した「戦争と平和協定、対北敵視政策の存廃にかかっている」を通じて、△朝鮮の対南政策の変更は、敵対的2国家維持という「現状維持」政策ではなく、敵対的南北関係を「終結」させる超強硬「現状打開」戦略と判断し△その「現状打開」戦略を、戦争ではなく、「南・北・米が戦争状態を終結し、平和協定を締結し、相互に正常な国家関係へと転換するもの」ととらえ△そのために韓米が対朝鮮敵視政策を放棄することを主張した。一部(1と4)省略し紹介する。

2.北(朝鮮)、新しい類型の現状打開戦略を試みる

北の対南政策の変化はおよそ80年の対南事業に対する冷徹な総合評価に基づいている。米国に隷属した南韓政府とは(平和)統一が不可能だという結論である。属国・大韓民国の吸収統一政策と北の政権壊滅戦略の中止を期待するのも錯誤という評価である。したがって、大韓民国(政府)族属をこれ以上、同族として見ず、同族として対したすべての政策(対南、統一政策)を完全に廃棄するということである。

北の対南認識が2023年12月末、朝鮮労働党中央委全員会議を基点に完全に転変されながら、北の統一政策自体が廃棄された。分断以後初めて北は大韓民国(南朝鮮)をこれまでとは異なる視点で見ている。もちろん、これは北が「チュチェ(主体)の民族概念」自体を否定するものではなく、南韓同胞が新しいある他民族ということを意味するものでもない。同族ではない奇異な傀儡(かいらい)族属が代表する大韓民国「政府」と、同族である全体「人民」を分離して見ている。すなわち、大韓民国政府を交戦中の敵国政府としてだけ規定している。

現在、新しい判断と政策で南北関係と周辺国関係に根本的変化を推進するのは、誰が見ても北(朝鮮)である。それならば、北の変化した政策の目的と意図は何だろうか? 北の政策変化が意味するものが、南と北という敵対的「2国家維持」という「現状維持」政策ではないという点は明確である。北(朝鮮)の政策は逆に敵対的な南北関係を「終結」しようとする超強硬「現状打開」戦略と判断される。これをもう少し詳細に見てみよう。

現状維持の内容には次の二つの意味がある。「戦争状態」維持と「分断状態」維持である。

 (1)南北が異なる国で永久分離されること(1民族2国家、分断状態維持)

 (2)南北の戦争状態と敵対関係がそのまま維持されること(交戦中の敵対関係、戦争状態維持)

米国の対朝鮮半島政策の一つである「二つの韓国政策」の目的がまさに「現状維持」政策である。これに並行し米国は対北敵視政策である北の政権崩壊政策(侵略併合、吸収統一)をおよそ80年間、執拗に実行している。一言で言うと、米国の朝鮮半島政策の基本は、平和でも戦争でもない慢性的な朝鮮半島戦争危機体制である「戦時体制+分断体制」を維持することである。米国が北が提案する平和協定を必死に拒否するのは、それがこの現状維持戦略に反するためである。

それでは、分断と戦争状態を根源的になくす現状打開戦略は何であり、どうすれば可能だろうか? 順に可能性を推論してみよう。

 (1)南北政府が連合し平和的に連邦制統一を実現すること(統一国家建設、1民族1国家)

 (2)大韓民国と朝鮮が戦争を通じ国家併合に至ること(戦勝国の1国家で吸収併合)

 (3)南・北・米が戦争状態を終結し、平和協定を結び、相互に正常な国家関係の樹立へと転換すること(朝-米修交、韓国-朝鮮の関係正常化)

 (1)の経路は、わたしたちがよく知る北の平和統一戦略である。これを今回、廃棄すると北が宣言したのである。これまで、祖国統一が北の最高の至上課題であるにもかかわらず、朝鮮半島で再び戦争が発生することを決して望まなかった。北の既存の「統一大戦」の概念も、統一攻撃戦ではなく相手が侵略する場合の反撃戦に限定したと見ることができる。

したがって、これまで北は平和統一のためにも、北の社会主義建設のためにも、戦争を防ぐことを何より重要な課題と見てきた。北の核武力増強政策の1次的使命が自衛力、戦争抑止力という表現なのもそのせいだ。2021年10月、金正恩(キム・ジョンウン)委員長の「われわれの主敵は戦争それ自体であり、南朝鮮や米国、特定の国家や勢力ではない」とする概念も、ここから出た表現と見ることができる。言葉のとおり、圧倒的威力で更新される不可抗力的な最新鋭核武力で戦争自体を防ごうという内容である。

しかし、これらすべての対南政策が変わった。北はいまや(2)と(3)の経路を試みるものと見られる。北が今回の朝鮮労働党中央委全員会議以前に(2)の経路を想定したり公表したことはない。理由は80年間一度も南韓(南朝鮮)を他国や同胞ではないものと考えたことがないからである。(3)の経路も、北が直接公表したことはなく、これは筆者の推論である。その可能性もまた楽観できない希望事項だが、そうだとしても(3)の可能性についてももう少し推論してみよう。

3.対北敵視政策の廃棄、朝鮮半島の平和関係の可能性

北(朝鮮)が韓国との関係において同族と統一概念を消すことにより、全く想像しなかった他の経路が新しく登場した。この経路の主な目的は現状打開であり、具体的には「(分断体制から)南北統一へ」から朝鮮半島の「戦争問題の根源を優先解決」(戦時体制の終結)に移動したと見ることができる。すなわち、新しい経路の当面目標は「朝鮮半島の戦時体制の終結」と見られる。これが大韓民国に与える衝撃は朝鮮半島統一に劣らず一般人の想像を超越するものと見られる。

このような政策変化には、北が韓国との平和統一が不可能であるという判断が前提となっている。また、韓米の対北敵視政策が生み出す恒常的な朝鮮半島の戦争危機が再演される限り、北の社会主義の全面的建設と、朝鮮と韓国を含む朝鮮半島と東アジアの平和関係と平和環境自体が保障されえないという判断も溶け込んでいると見られる。もちろん、このような戦略変化には、南韓の全般的な自主統一力量の停滞や後退にもかかわらず、北の軍事力と主体力量が飛躍した条件と米国が失墜する国際情勢が反映されている。

とにかく現在、南北が合意したすべての南北関係の合意は破棄され、南北関係を規定する文書は1953年に米国と朝鮮、中国が合意した停戦協定の外には何もない。北が南北関係を敵対的交戦国である国と国の間の関係と宣言したことで、朝鮮-韓国関係という用語が新たに登場し、従来の「北南関係」という用語は北から消えるだろう。

南北関係が国と国の間の他国関係であり、韓国-朝鮮が戦争中の敵対的交戦関係なら、この関係で予想できる未来の韓国-朝鮮関係は次の三つである。これを一つずつ見てみよう。

 (1)交流が完全に遮断された敵対的2国交戦関係(必然的に戦争発生)

 (2)平和協定で敵対的関係が解消された2国平和関係(平和協定後に正常な交流関係)

 (3)戦争で一つの国に併合された1国体制(1国家に吸収併合)

 (1)の場合は、2024年以後、新たに規定された韓国-朝鮮関係である。これは以前の敵対的南北関係と現象は同じだが、本質的性格が違う点は、北(朝鮮)が南(韓国)を二重に見た視点(統一対象+敵)から、いまは交戦中の敵国としてだけ見るという点である。これは韓国の敵視行為がある場合、北は戦争を避けようとする努力を決してしないだろうし、「まかり間違えば」南を平定、収復するということである。

このことが意味するのは、南北間で軍事的合意と衝突防止のための緩衝装置が消えた現在のような状態で、韓米がこれまでのように対北敵視政策を維持すれば、必然的に100%軍事的衝突と戦争を呼び起こすようになるという点である。すなわち、過去と異なり、これからは韓米の対北敵視政策の維持はまさに戦争発生を意味する。したがって、過去と異なり、このような状態が長く維持されることは不可能である。

「わたしたちは、同族という修辞的表現のために、共和国政権の崩壊を企て吸収統一を夢見る韓国傀儡との形式上の対話や協力ごときに、しかたなく力を尽くさなければならなかった、非現実的な桎梏(しっこく)を主動的に払いのけ、明確に敵対国として規制したことに基づき、まかり間違えばいつでも打ち壊滅させることができる合法性を持ち、さらに強力な軍事力を育て……」(金正恩、2月8日、国防省祝賀訪問演説)

 (2)の経路は、現在、新しく造成された核戦争危機と深刻な状況変化を冷静に認識し、必然的に戦争を呼ぶ相互の敵視政策と対北敵視政策を廃棄する方途を探す経路である。いわゆる戦争危機の中で、平和交渉を通じた朝鮮-韓国-米国の3国平和関係形成である。これは望ましい方向だが、問題は現実においてこの経路がラクダが針の穴を通るように難しいという点である。ここでカギは米国の「条件のない」対北敵視政策の廃棄とそれに続く平和協定問題だ。朝-米平和協定で在韓米軍撤収を含むのは必然である。在韓米軍が対北敵視政策の象徴であり物理的実体だからである。

ここで「条件のない」いう言葉は、米国が過去のように北の非核化をこれ以上は取り上げず、朝鮮と修交するという意味である。北が憲法に核保有と核武力増強政策を明記した状況で、北を非核化することは交渉しないか戦争しようという話と同じになった。非核化交渉や北の核凍結はトランプ大統領との朝米首脳会談が最後の機会だった。米国は良い機会を逃した。現在、北の核保有と核武力増強の意志は逆進不可状態である。これは米国や中国に対し核凍結し非核化しろという言葉のように、現実性がなくなった。北の非核化はいまや朝-米間の交渉議題としては不可能である。

この経路が望ましいのに、非常に難しいと見る理由は、米国のこのような「条件のない」対北敵視政策の廃棄の決断を下す可能性が希薄であると見るからである。むしろ米国はこの機会に無謀な対北軍事的冒険主義的政策をさらに試みる可能性が高いと思われる。歴史上「帝国主義が自ら退いた場合がない」という言葉が名言である理由だろう。

現在進行中の韓米の対北敵視政策を列挙すればきりがない。米国が放棄できる代表的な対北敵視政策を簡単に列挙してみよう。

 (1)北の首脳部を除去する斬首作戦計画、北への核先制打撃と占領計画(作戦計画5015)

 (2)北の政権崩壊の誘導と対備作戦計画(作戦計画5026、5028、5029、5030など)

 (3)上記の作戦計画を演習する例年的な韓米合同軍事訓練、各種の韓米日合同海上・空中軍事訓練

 (4)米国の核戦略資産の常時展開

 (5)多国間海上軍事訓練、戦争対備の国連司令部の整備強化

 (6)様々な対北経済制裁、国連を通じた制裁

 (7)在韓米軍、国家保安法、北の領土に関連した大韓民国憲法

などである。

それではもし米国が条件なしに対北敵視政策の廃棄に応じたとすれば、得られる利益は何だろうか? 米国も得られるものが明確にある。74年続いた朝鮮との戦争を終了することで、朝-米核戦争の危険が除去されることが一つだろう。類例のない米国本土の核戦争安保危機と世界的核拡散危機を除去するのである。 もう一つは、北の政策変化で予想される韓国-朝鮮戦争の結果により韓国を完全に失うようになる可能性、すなわち朝鮮に大韓民国が併合される危険を先制的に除去することである。

米国は、韓国と朝鮮の戦争が発生すれば、戦略戦術核武力の集中使用を公言する朝鮮に対応する方法が明らかにない。一言で言えば、それは避けなければならない戦争であり、対応する水準の戦争ではもうないからである。米国が言えるのは「北韓政権の終末」という外交的修辞だけだ。米国は、朝鮮-韓国戦争が米国が介入する余地と余裕がないままに、朝鮮の勝利で終結されることを憂慮している。

米国は日本に原子爆弾を投下した経験があるが、これは非核国家に対する一方的な核兵器使用だった。米国は万が一ありうるロシア、中国との戦争も双方の核武力を使う戦争は想定しない。ウクライナ戦争や台湾戦争でロシアや中国が戦術核を使わないようにするのは、米国との核戦争拡大の可能性のためである。ところが、コリア戦争は地球上で唯一、朝鮮と米国どちらも開戦開始から核戦争を前提にしており、これを既定事実とする特異で危険千万な戦争である。

米国が北の政策変更について驚き警戒するのは、皮肉にも北の統一政策の廃棄である。北の統一政策と同族政策により、米国が大韓民国の存立を心配する理由は大きくなかったからである。逆説的に北の同族政策と平和統一政策のために南北戦争の可能性は減り、たとえ南北間の衝突が発生しても、同族間の全面戦争を望まない北と一定の線で統制できたという意味である。ところが、いまは事情が完全に変わった。大韓民国という緩衝地帯は消えてしまい、相互の敵視政策が招く韓国-朝鮮戦争の発生は時間の問題に変わったからである。

5.戦争か、平和か、ボールは再び米国に

結局、すべての話は対北敵視政策の廃棄に戻る。北が願うことは朝鮮半島における戦争危機の根源問題を除去するところにあると思われる。言い換えれば、対北敵視政策が完全に終息した平和な新しい朝鮮半島と東アジアの体制と見られる。

北はこれ以上、祖国統一を名分に戦争しないと言う。韓国と朝鮮の間に戦争が発生すれば、いまはその性格も統一戦争ではなく、敵対国に対する壊滅、修復戦争になった。敵対国の敵視政策が招く衝突と反撃で戦争が始まり、国家併合と革命的大事変へと帰結されるという意味である。しかし、衝突の名分と原因、経路は違うが、結果的に武力統一と類似の結末と見ることができる。

現在、戦争を避ける唯一の道は、大韓民国と米国が対北敵視政策をすぐさま廃棄し、停戦協定を平和協定へと転換し、新しい朝鮮-韓国、朝鮮-米国、朝鮮-日本の関係を開く道だけだ。

原文 http://www.minplusnews.com/news/articleView.html?idxno=14631