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韓日(東京)、韓米(ワシントン)、韓日(ソウル)と続く首脳会談…韓米日首脳会談(G7広島サミット)で韓米日軍事協力=軍事同盟化を誇示へ  

【2023年5月12日】

韓米首脳会談、ワシントン宣言発表 

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領とバイデン米大統領は4月26日(現地時間)、ホワイトハウスで首脳会談を行い、北朝鮮(※正しくは朝鮮、以下同じ)の核・ミサイルの高度化に対抗し、拡大核抑止を強化することで合意した。協議体「核協議グループ」(NCG)の創設を柱とする「ワシントン宣言」に具体的な内容が盛り込まれた。首脳会談は少人数会合と全体会合を合わせ、約1時間20分行われた。

尹大統領は「韓米同盟がグローバル同盟に新しく出発する歴史的な里程標になる」とし、バイデン大統領は「北朝鮮の脅威が高まる中、われわれの協力が大きく拡大している」と述べた。また「尹大統領の大胆で原則のある日本との外交的な決断に感謝する」として、「(韓米日)三カ国のパートナーシップを強化し、大きな影響力をもたらすと思う」と述べ、尹大統領が主導している韓日関係の改善を評価した。

両首脳は会談後、共同記者会見を開き、会見では拡大核抑止の強化を目指すワシントン宣言に重点が置かれた。

尹大統領は「両国は北が核攻撃を行う場合、直ちに首脳間の協議を持つこととし、米国の核兵器を含む同盟のすべての戦力を使った迅速かつ圧倒的、決定的な対応を取ることを約束した」と明らかにした。また「北の脅威に対応し、核と戦略兵器の運営計画に関する情報を共有するとともに、韓国の先端的な従来型戦力と米国の核戦力を結合した共同作戦を共に企画し実行する方策を定期的に協議し、その結果は両首脳に報告される」と説明した。「米国の戦略資産の朝鮮半島展開も定期的かつ持続的に行われる」とも述べた。ワシントン宣言に関する記者団の質問に対しては、「拡大核抑止の強化とその実行案は過去とは異なるもの」とし、「北の核に対する国民の懸念は多く解消されると見ている」と答えた。そのうえで、「米国が核資産に関する情報と計画、それに対する対応実行を誰かと共有し、話し合ったことはない」として、「新たな拡大核抑止策であり、だからこそより強力だと自信を持って言える」と強調した。

バイデン大統領も「米国や(米国の)同盟に対する北朝鮮の核攻撃は受け入れられない。北朝鮮が核攻撃を行えば、政権の終末を招くことになる」と強く警告した。ワシントン宣言については「高まる北朝鮮の核脅威に対応するため、拡大核抑止において踏み込んだ措置を取るということ。措置が必要ならば、適切な時期に同盟国と協議するためにあらゆる努力をするという意味」と評価した。また、「朝鮮半島に核兵器は再配備しない」という立場を確認しながらも、「原子力潜水艦を含む(戦略資産の)展開を拡大する」との方針を示した。

首脳会談では、米インフレ抑制法などを含む両国の経済安全保障のサプライチェーン(供給網)問題も重点的に議論された。両首脳が採択した共同声明では、「インフレ抑制法に対する韓国企業の懸念を緩和するために両国が傾けてきた努力を評価した」とし、緊密な協議を続けることを確認した。

ウクライナ支援も議題になった。尹大統領は会見で「ロシアのウクライナ侵攻のように人的被害を引き起こす武力使用は、いかなる場合にも正当化できないという立場を確認し、国際社会と共にウクライナを支援するための協力を継続していくことにした」と述べた。

尹大統領、米議会演説

尹大統領は27日午前(現地時間)、米議会上下両院合同会議で演説し、北朝鮮の核・ミサイル高度化に対し、「韓国と米国、日本の三カ国の安全保障協力を加速する必要がある」と訴えた。「民主主義と法の支配を守らなければならない」とし、台湾に圧力を強める中国やウクライナ侵攻を続けるロシアを暗に批判。韓国は米国と共に「自由を守り広げる『自由の羅針盤』の役割を果たす」と表明した。両院合同会議で韓国大統領が演説するのは2013年の朴槿恵(パク・クネ)氏以来、約10年ぶり。

野党・市民社会団体、韓米首脳会談を批判

第一野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は28日、韓米首脳会談について「惜しみなく与える『グローバルなカモ外交』で屈辱的な状況に直面している」と批判した。進歩党は「新冷戦を強化する反平和会談」であり「反中国路線を鮮明にした」と指摘。全国民衆行動は「『韓米日対北中ロ』の陣営対決を加速化させ朝鮮半島の戦争危機を高めた」と強調した。

北と中国、強く反発

朝鮮労働党の金与正(キム・ヨジョン)副部長は29日、朝鮮中央通信を通じ声明を発表。ワシントン宣言を「最も敵対的かつ侵略的な行動の意思が反映された極悪な対朝鮮敵視政策の産物」と指摘したうえで、韓米の大統領を強く非難した。バイデン大統領に対しては、核攻撃を行えば「政権の終末を招く」と発言したことに触れ、「未来のない老いぼれの妄言」と批判し、尹大統領に対しては「米国からの抜け殻宣言にありがたがる愚か者」と批判した。

金副部長はワシントン宣言で核兵器を搭載できる米原子力潜水艦の韓国寄港などを明記したことをあげ、これに対抗して「より決定的な行動」を取るとし、韓米が合同軍事演習を行えば北朝鮮の自衛権行使も「正比例して増大する」と表明した。

また「核戦争の抑止力向上と、とりわけ抑止力の第2の任務により完璧であるべきとの事実を改めて確信した」と強調した。これは北朝鮮の核武力が相手の攻撃を阻止する抑止を目的にしているが、先制攻撃など別の任務にも適用できることを示唆したものと受け止められる。

中国外務省の毛寧報道官は27日の記者会見で、ワシントン宣言について「朝鮮半島の緊張を激化させ、地域の平和と安定を破壊する」として「断固とした反対」を表明した。米国は「自らの地政学上の私益を実現」するために、「朝鮮半島問題にかこつけて緊張をつくり出している」と非難した。

毛報道官はまた、韓米首脳が共同声明で「台湾海峡の平和と安定の維持が地域の安全と繁栄に不可欠」だと指摘したことについて、「台湾問題は中国の内政であり、中国の核心的利益の中の核心だ」と反発した。韓米両国に対し「台湾問題で言動を慎み、誤った危険な道をさらに進まないよう促す」と述べた。

 

原潜の展開で朝鮮半島の軍事緊張激化

いわゆる北の核・ミサイルの高度化を背景に、尹政権は安保不安を払拭するためとして、米国による拡大核抑止のより確かで強力な実効性をバイデン政権に求めてきた。具体的には米国との核共有や米国による核兵器配備が論じられ、さらには韓国独自の核開発主張まで取りざたされている。

こうした中、韓米両首脳は会談後に拡大核抑止の強化を盛り込んだ「ワシントン宣言」を発表した。同宣言に関連して、金泰孝(キム・テヒョ)国家安保室第一次長は記者会見で、「韓米は米国の核運用に対する情報共有と共同計画のメカニズムを設けた」とし、「韓国国民は事実上、米国と核を共有していると感じるだろう」と評価した。ところが、米国家安全保障会議(NSC)のケーガン上級部長(東アジア・オセアニア担当)は韓国メディアを対象にした会見で、「核共有とはみていない」との認識を示した。韓国側が「事実上の核共有」と明らかにしたのに対し、米側は「核共有ではない」と表明、同宣言を巡る認識の違いが露呈した。韓国大統領室関係者は「『事実上の核共有』は一種の修辞的な表現」と述べるなど、韓国側は「立場の違いではない」と火消しに回った。  

バイデン大統領は共同会見でワシントン宣言について「高まる北朝鮮の核脅威に対応するため、拡大抑止において踏み込んだ措置を取るということ。措置が必要ならば、適切な時期に同盟国と協議するためにあらゆる努力をするということ」だと述べ、北が核攻撃を行う場合に「措置(核兵器対応)が必要ならばあらゆる努力をする」のではなく、「措置が必要ならば同盟国と協議するためにあらゆる努力をする」とワンクッション置いている。

米国は核兵器使用について、独占的かつ排他的で、最終的な権限は米大統領だけが持つとの立場を堅持している。ワシントン宣言を通じ、韓国に対する拡大核抑止の強化は確認したが、核使用の「単一権限」を韓国と共有する意思はないことを明確にした。

今回の首脳会談で指摘すべき重要なことは、米国が「朝鮮半島に核兵器は再配備しない」という立場を確認しながらも、「原子力潜水艦を含む(戦略資産の)展開を拡大する」との方針を示した点。これにより、米国が朝鮮半島とその周辺ですでに展開している戦略爆撃機と原子力空母に加えて、核ミサイル搭載可能な原子力潜水艦が42年ぶりに韓国に寄港することになる。合同軍事演習および拡大核抑止に基づく戦略資産の展開に強く反発し対抗してきた朝鮮をさらに刺激するだけでなく、中国の反発も招きながら、朝鮮半島を中心とする東アジア地域の軍事緊張をますます激化させるのは明らかだ。

韓日首脳会談

尹大統領は7日午後、大統領府で訪韓した岸田首相と会談した。会談後の共同記者会見で、首相は日韓間の最大の懸案だった強制動員被害者(元徴用工)問題に関し、「当時、厳しい環境の下で多数の方が大変苦しく、悲しい思いをしたことに心が痛む」と表明。大統領は韓国政府の方針について「変わらない」と述べた。

歴史問題について、大統領は「完全にけじめをつけない限り、未来の協力に一歩も踏み出せないという考えから脱却しなければならない」とし、「どちらかが一方的に要求できる性質の問題ではない」との認識を示した。また、今回の首相訪韓により「日韓関係の正常化が軌道に乗った」と述べた。首相は「歴代内閣の立場を引き継ぐと明確にした。この立場は今後も揺るがない」と強調。

会談で両首脳は、東京電力福島第一原発の処理水に関し、韓国の専門家による現場視察団の派遣で合意。核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対し、抑止力と対処力を強化する重要性で一致した。両国企業による半導体のサプライチェーン(供給網)構築に関する連携強化も確認した。

市民社会団体のネットワークである韓日歴史正義平和行動は同日午後、大統領室前で記者会見を開催。歴史問題における謝罪・賠償を日本政府に要求し、日本の大軍拡、韓日・韓米日軍事協力、放射能汚染水の海洋投棄に反対した。4日には同行動、正義連、環境運動連合など約950団体と「共に民主党」など野党・無所属議員が国会で記者会見を開催し同様に主張した。

韓日(東京)、韓米(ワシントン)、韓日(ソウル)首脳会談から韓米日首脳会談(G7広島サミット)へ

岸田首相は歴史問題に対して「歴代内閣の立場を引き継ぐ」とこれまでの主張を繰り返すにとどまり、尹大統領は「完全にけじめをつけない限り、未来の協力に一歩も踏み出せないという考えから脱却しなければならない」とすることで、日本政府に歴史問題についての免罪符を与え、前回首脳会談で合意した韓日「政治決着」をさらに固めた。

尹大統領は共同記者会見で「ワシントン宣言は韓米間の合意だが日本の参与を排除しない」とし、自衛隊の参与に道を開いた。韓日首脳会談(3月、東京)を始発点に、韓米首脳会談(4月、ワシントン)を経て、韓日首脳会談(5月、ソウル)に至るこの間の三国間外交。これはG7広島サミット(19~21日)における三カ国首脳会談で全世界に向けてアピールしようとする韓米日軍事協力態勢=韓米日軍事同盟化を構築する過程である。そして韓日シャトル外交の展開は、韓米日軍事同盟化を念頭に、韓日の軍事同盟化を実現する過程である。

朝鮮戦争の停戦協定70年を迎える今年、朝鮮半島の平和を実現することは喫緊の課題だ。朝鮮半島における核戦争の危機を増大させ、東アジアの軍事緊張を高める韓米日軍事同盟化を許してはならない。尹政権は対米追従と対日屈辱外交を即刻中止しなければならない。そして韓米日軍事同盟化を誇示する場となるG7広島サミットの開催に反対する。