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韓国政府が強制動員被害者賠償問題の解決策を発表…被害者・支援団体・市民社会団体・野党は親日売国姿勢を一斉に糾弾

【2023年3月17日】

韓国政府、解決策を発表 

韓国政府は2月6日、日本による強制動員被害者(元徴用工)への賠償問題をめぐり、2018年の韓国大法院(最高裁)の判決で勝訴が確定した被害者に対し、政府傘下の財団が日本の被告企業の賠償を肩代わりして支払うことを正式に発表した。朴振(パク・ジン)外交部長官が記者会見を開き、政府の解決策を発表した。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は同日、韓悳洙(ハン・ドクス)首相との会合で「さまざまな困難の中でも強制徴用問題の解決策を発表したのは、未来志向の韓日関係に進むための決断」と強調した。 

政府は国内の意見の取りまとめや日本との協議結果などをもとにこのように決定したという。朴氏は「行政安全部傘下の日帝強制動員被害者支援財団が徴用被害者と遺族の支援、被害救済の一環として、2018年に大法院で確定した3件の判決の原告に判決金(賠償金)および遅延利息を支給する予定だ」と説明した。現在係争中の別の徴用関連訴訟で原告が勝訴した場合も、財団が原告に賠償金と遅延利息を支給する。財源は民間企業の寄付で賄う。1965年の韓日請求権協定で日本の経済協力を受けた鉄鋼大手ポスコなど韓国企業の寄付を想定し、被告となっている日本企業の寄付を前提としない。

朴氏は「両国の経済界が自発的に寄与する方策を検討中で、日本政府も反対しない立場だ」と明らかにした。日本の経団連と韓国の全経連が共同で若者のための基金をつくる案を検討している。

韓日両政府の高官は、被告企業に賠償金を求める「求償権」の行使は想定していないと説明した。

朴氏は、1998年10月に当時の金大中(キム・デジュン)大統領と小渕恵三首相が交わし、日本の植民地支配に反省とおわびを記した「21世紀に向けた新たな韓日パートナーシップ共同宣言」について言及し、「日本が既存の反省とおわびの談話を一貫して忠実に履行することが重要だ」と述べた。

日本政府は評価、米国政府は歓迎 

岸田文雄首相は同日、参院予算委員会で韓国政府の解決策について「日韓関係を健全な関係に戻すためのものとして評価する」と語った。林芳正外相は記者団に日韓パートナーシップ共同宣言を含め歴代内閣の立場を引き継いでいると表明。韓国大統領室は記者会見で日本政府の立場表明を肯定的に評価した。

韓国政府が求めていた日本の対韓輸出規制の緩和に向け、韓日両政府は協議を速やかに再開すると発表した。9日には、尹大統領が日本政府の招待を受けて16~17日に訪日し首脳会談が開催されることが発表された。

韓国政府が解決策を発表したことに関し被告企業の日本製鉄と三菱重工業は「特にコメントする立場にない」とし、改めて「日韓請求権協定で解決済み」との見解を明らかにした。

バイデン米大統領は声明で「米国に最も近い同盟間の画期的な協力とパートナーシップの新しい章が開かれた」「韓米日三カ国協力に寄与するものと期待する」と歓迎した。尹大統領を国賓としてホワイトハウスに招き首脳会談を開催することも正式発表された。

被害者・支援団体・市民社会団体・野党は一斉に糾弾

一方、被害者の支援団体「民族問題研究所」と原告代理人は6日、ソウル市内で記者会見を開き、「韓国の行政部が日本の加害企業の司法的な責任を免責するもの」と批判した。解決策に同意する被害者に対しては債権消滅の手続きを進める一方、同意しない被害者とは被告の日本企業の韓国内資産を売却する現金化を引き続き進める方針を明らかにした。2018年に勝訴が確定した3件の訴訟の原告のうち、存命中の3人はいずれも解決策に反対しているという。

複数の市民団体でつくる「歴史正義と平和な韓日関係のための共同行動(韓日歴史正義平和行動)」は同日午前、ソウルの外交部庁舎前で緊急記者会見を開き、被害者に対する謝罪と賠償がなければいかなる解決策も認められないとして、政府に撤回を求めた。朴錫運(パク・ソグン)共同代表は、「尹政権は国民の法的権利を踏みにじり、日帝戦犯企業の責任を免罪する親日売国交渉を強行した」と批判。尹大統領と朴長官が大法院の判決に背く職務執行を行ったと非難した。韓日歴史正義平和行動は同日夜、ソウル市庁前広場で韓国政府を糾弾するキャンドル集会を開いた。

市民団体「日帝強制動員市民の集まり」などは同日午後、光州市内で記者会見を開き、「政府の解決策は韓国政府が司法の判決を無力化した司法主権の放棄であり、自国民に対する外交的保護権を放棄した第二の乙巳条約(第二次韓日協約)」と非難した。判決に伴い日本企業が払うべき賠償金を、関係のない韓国企業がなぜ抱え込まなければならないのかとし、「加害者から謝罪を受け正当な賠償を受けようとする被害者を不遇な人のように扱って侮辱している」と非難した。「日本は既存の談話で植民地支配に対する反省の気持ちを示したことはあるが、ただの一度も違法であることを認めたことはない」とし、「(林外相が表明した)既存の談話を継承するという態度は、植民地支配が合法だという主張を繰り返したに過ぎない」と指摘した。団体側は「韓日関係の正常化という口実をつくったが、韓米日軍事同盟体制の完成のために日帝の被害者をそのいけにえにしたもの」とし、「民族の尊厳を投げ捨てた売国行為を待つのは国民の厳しい審判しかない」と強調した。

日本の「強制動員問題解決と過去清算のための共同行動」は6日、声明「歴史に目を閉ざし、被害者を置き去りにしたままでは解決にならない!」を発表。「被告企業は謝罪もしていなければ賠償支払いの表明もしていない」「林外相の『歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる』との言葉は、『韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えた』という1998年日韓共同宣言の核心的部分を欠落させている」と指摘し、このように韓国の財団に賠償支払いを肩代わりさせておきながら、加害当事者は謝罪もせず一円の金も出さない、これで強制動員問題が解決するはずはないと批判した。共同行動は被害者ととともに△日本政府・被告企業が強制動員の事実を認めて真しに謝罪し、その証として償いのために資金を拠出し、同じことを繰り返さないための措置を具体的に講ずること△そのために被害者原告及び遺族との協議の場を設けることを求めて運動を続けると主張した。

第一野党「共に民主党」の国会議員らは6日、政府が発表した解決策について「第2の庚戌国恥(韓日併合)」などと批判。同党の李在明(イ・ジェミョン)代表は「尹政権が歴史の正義を裏切る道を選択した」とし、「これは加害者の真の謝罪と賠償を要求する被害者を踏みにじる二次加害であり、大法院の判決にも反する暴挙」と非難。慰安婦問題を巡る朴槿恵(パク・クネ)元政権の「拙速」交渉から尹政権が学んでいないなどと強調した。

野党・正義党の李貞味(イ・ジョンミ)代表は「誰も理解できないもう一つの外交惨事」とし「大法院の判決にまで正面から違反し、急ぐ尹政権の解決策は到底受け入れられない」と表明した。

共に民主党や正義党、無所属議員など計53人が参加する「日本の強制動員謝罪と戦犯企業の直接賠償を求める議員の会」は緊急記者会見を開き、糾弾声明を出して政府案の撤回を要求した。会の代表を務める共に民主党の金相姫(キム・サンヒ)議員は会見後、記者団に対し、「今までは日本政府や戦犯企業と被害者の戦いだったが、今後は韓国政府と被害者の戦いになるだろう」と話した。

進歩党は外交部前で記者会見を開き、政府が発表した解決策に対し「史上最悪の屈辱外交」と反発した。ユン・ヒスク代表は、徴用問題解決の譲れない原則として犯罪の認定、謝罪と賠償、責任者の処罰の三つを挙げ、いずれも含まれていない解決策は無効だと主張した。

尹政権の売国的解決策を撤回させよう

尹政権が発表した解決策は、韓国政府傘下の財団が国内企業から寄付を集め被害者に賠償しようというもの。日本政府はこの間、1965年請求権協定を引用しながら「両国の問題は完全かつ最終的に解決された」ものであり、「企業の賠償問題を提起することはできない」と主張し、大法院判決を無視。解決を求める韓国政府に対し「韓国政府が解決案を示せ」と強圧的な姿勢で対応してきた。しかし、尹政権は今回の解決策の提示で日本側の主張をそのまま認定し、日本政府と被告企業に免罪符を与えるとともに、行政府が司法府の判断に違背するという重大な過ちを犯した。

日本による植民地支配に抵抗して1919年に起きた独立運動「三・一運動」から104年を迎えた1日に開かれた記念式典で、尹大統領は演説し、「三・一運動から一世紀が過ぎたいま、日本は過去の軍国主義侵略者からわれわれと普遍的な価値を共有し、安全保障や経済、そしてグローバルアジェンダで協力するパートナーに変わった」と述べ、軍国主義侵略者をパートナーと認めることにより、過去の歴史清算にふたをし「未来志向」の名のもとに韓日関係を急ぎ「改善」する姿勢を露骨に示した。

バイデン大統領は歓迎声明を通じて韓米日三カ国協力に言及した。「韓日関係の悪化」という障害が取り除かれたとすることにより、韓米日三カ国協力は一挙に加速される可能性が高まった。韓日首脳会談、韓米首脳会談を経て、5月の広島G7サミットを舞台に、米国主導の韓米日三カ国協力の姿をアピールする考えだ。三カ国協力は、朝鮮・中国・ロシアに対するアジア版NATOまで構想した韓米日軍事同盟化を目標に急速に進められ、朝鮮半島と台湾、東アジアにおける戦争の危機はいままで以上に増大することになる。

これといった外交努力を傾けるわけでもないまま、日本側に白旗を掲げ喜んで投降したともいえる尹政権。韓国民衆は民族主権、国家主権を放棄した政権に幻滅と絶望を感じる以上に、怒りに燃えて立ち上がっている。被害者を中心に市民社会団体と野党はすぐさま一斉に糾弾の声をあげた。この闘いは一時的なものではなく継続し拡大するのは間違いない。すべての力を動員して尹政権の売国的解決策を撤回させなければならない。