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韓米日首脳会談、韓米日軍事協力から実質的な韓米日軍事同盟へ…朝鮮半島と周辺地域でさらに高まる軍事緊張

【2022年11月29日】

尹大統領、東南アジア歴訪

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は11月11日にカンボジアのプノンペンを訪問。韓国・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議やASEANプラス3(韓中日)首脳会議、東アジア首脳会議(EAS)などに出席した。13日午後には韓日、韓米、韓米日首脳会談に臨んだ後、インドネシアに移動し、14~15日にはG20(主要20カ国・地域)各国の経済団体や企業によるビジネスサミット(B20サミット)やG20首脳会議(サミット)などに出席した。韓中首脳会談は歴訪最終日の15日に行われた。

韓米日3カ国首脳会談

首脳会談を行った尹大統領とバイデン米大統領、岸田文雄首相は「一層緊密な3カ国連携を強固にしていくことで一致した」として、共同声明「インド太平洋における3カ国パートナーシップに関するプノンペン声明」を発表した。朝鮮の核・ミサイル開発を踏まえ、韓日への米国の「核の傘」提供を含む拡大抑止強化やミサイル情報の即時共有を明記。安全保障分野の連携構築も打ち出した。バイデン大統領は「韓米日の協力はかつてないほど重要だ」とし、「韓国と日本に対する米国の防衛公約は揺るぎない。核を含むあらゆる防衛力で後押ししている」と強調した。

中国について名指しは避けながらも、「包摂的で強じんで安全な、自由で開かれたインド太平洋」を追求するとし、「政府のあらゆるレベルで3カ国の形式で協働する」方針を示した。「台湾海峡の平和と安定の維持の重要性」にも言及した。また、ウクライナへの支持を示し、「ウクライナの領土の一体性と主権の即刻回復を促す」と求めた。一方、3カ国は経済安全保障に関する協議体の新設で合意。声明では安全で回復力のある供給網の構築や重要・新興技術を巡る協力強化などを明記した。

朝鮮中央通信によると崔善姫(チェ・ソニ)外相は17日、談話を発表。韓米日が拡大抑止強化で合意したことを非難し、「情勢をさらに予測不可能な局面に追い込む」などと警告した。グローバルタイムズ(中国・人民日報の姉妹紙・環求時報の国際版英字紙)は14日、韓米日会談結果について「アジア版NATOを注視すべき」との警戒論が中国で浮上していると伝えた。

歴訪めぐり与党は自賛・野党は批判

尹大統領の今回の歴訪について、与党「国民の力」の鄭鎮碩(チョン・ジンソク)非常対策委員長はフェイスブックに「文在寅(ムン・ジェイン)政権の5年間、韓米同盟が生きていたか。韓米同盟は名前だけだった」として、「韓国の外交も正常化の道に入った」と評価した。一方、第一野党「共に民主党」の朴洪根(パク・ホングン)院内代表は16日の最高委員会議で、「韓日首脳会談では歴史問題に関するいかなる進展もなく、日本の謝罪の一言もない軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の修復は屈辱的」と批判した。

国防部のムン・ホンシク副報道官は14日の定例会見で、韓米日首脳が朝鮮のミサイル発射情報を即時共有する方針を確認したことについて、「3カ国が協力すれば、より正確なミサイル情報の共有が可能になる」と評価し、「(情報共有に関する)議論は3カ国すべてにとって利益になる方向で行われる」と説明した。

大統領室関係者は16日の記者会見で、韓日首脳会談について、両首脳が日本による植民地時代の韓国人徴用被害者への賠償問題を早期に解決することで一致し、意気投合したとの認識を明らかにした。また、政府の外交が米国一辺倒だとする批判には「同意し難い」と述べ、「中国と十分な外交を行っている」と反論した。

韓国版インド太平洋戦略

尹大統領は韓国・ASEAN首脳会議で自由・平和・繁栄を3大ビジョンとする「韓国版インド太平洋戦略」を発表した。これは韓国政府初の地域外交戦略だという。米国が中国けん制を念頭にした「インド太平洋戦略」を打ち出す中、米国との共同歩調を明確にしたものだ。韓国政府は反論するが、プノンペン声明とあわせて米国に同調した外交だと指摘せざるを得ない。

実質的な韓米日軍事同盟へ

韓国大統領室によると、韓米日3カ国の首脳による包括的な内容が盛り込まれた共同声明の採択は今回が初めて。米国が韓日に提供する拡大抑止策をめぐり核を含んだ防衛力の提供を明言したことは、崔外相の発言に示されるように朝鮮を強く刺激し、朝鮮半島と周辺地域の軍事緊張をより高めることになる。また、韓米日が収集した朝鮮のミサイル警戒情報をリアルタイムで共有することで合意したことは、事実上、韓日間の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)をなし崩し的に「正常化」したものであり、韓米日軍事協力を実質的な韓米日軍事同盟へと進展させる道を開いた。

尹大統領の「国益重視」

尹大統領は「外交の原則と基準は国益」だとし、国益重視を強調する。しかし、「米国への追従」「朝鮮との対決」「日本との協力」姿勢で貫かれたこうした外交が決して国益に符合しないのは明らかだ。