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論評紹介

【論評紹介】トランプの超強硬策、ベネズエラ封鎖は通じるか」(民プラス、12月19日)

ベネズエラで展開されている米国の強硬措置は2025年国家安保戦略(NSS)に正確に符合する。NSSは南米を含む西半球を米国の核心的な安保空間と規定し、中国とロシアのような域外勢力による影響力拡大を明示的に脅威と設定。ベネズエラをめぐる今回の措置は、南米を「米国の裏庭」と認識してきた戦略的構想を文書の文言ではなく実際の行動に移したケース。

トランプ米大統領は12月10日、タンカー「スキッパー」を拿捕。それ以前に、制裁対象のタンカーに対する「完全で相対的な封鎖」を命令し、ベネズエラのマドゥロ政権を外国テロ組織(FTO)と指定した。米国はベネズエラをこれ以上管理や交渉の対象ではなく、除去すべき対象として規定したことを露骨に示した。

「完全で相対的な」タンカー封鎖は経済制裁の範疇(はんちゅう)をこえている。これは国際政治においてふつう武力紛争を伴う手段で、特定の個人や機関ではなく国家の核心産業と政権存立を同時に狙う措置。ベネズエラを体制転換の対象と規定し、長期的な消耗戦も辞さないとする戦略的決断が根底にある。

マドゥロ政権への外国テロ組織指定もまた制裁強化をこえ米国の法的・軍事的行動半径を拡張しようとする布石。これを通じてタンカー封鎖と拿捕を「対テロ作戦」と再定義し、政権の合法性自体を否定し外交的孤立を深める効果を狙う。同時にベネズエラ内部の動揺と離脱を誘導し、反体制活動を活性化し体制転覆をたくらむものとみられる。

米国の国家安保戦略の実行においてベネズエラは象徴性が大きい国家。中国・ロシア・イランとの協力、エネルギーと金融部門における代案の模索は米国の覇権秩序に対する公開的な挑戦とみなされる。トランプ政権がマドゥロ政権に照準を定めたのは、世界最大規模と確認された石油埋蔵量を保有する国家に狙いをつけると同時に、南米全体に向けたメッセージを発信したものといえる。西半球からの離脱と域外勢力間の結束はこれ以上、容認されないとする警告だ。

最近の南米政治の地形変化もまた米国の選択を刺激した要因とみられる。チリとアルゼンチン、エクアドル、パラグアイ、ボリビア、エルサルバドル、コスタリカなど中南米の各地で親米右派政府が次々と登場。過去に左派政権が形成していた連帯は弱化しており、米国はこのことをとらえて、域内の集団的反発の可能性が低下し、友好的環境へと変化していると判断したようだ。

しかし、米国の戦略的意図が貫徹されるかは未知数。最近ベネズエラ政府は約20万人規模の兵力を動員し、全国単位で全面防衛訓練を実施し、正規戦はもちろん都市・内陸での抵抗まで準備していると誇示した。同時にロシア製の機動型防空体系を配置し、米国の精密打撃戦略に対応した中・短距離防空地帯の構築にも速度をあげている。

ロシア・中国・イランは米国の措置を主権侵害と規定し、ベネズエラに対する戦略的支持を強化している。直接的な軍事介入の可能性は制限的だが、防空・情報・無人(ドローン)体系など非対称戦略支援を通じて、米国の行動費用を引きあげる余地は十分だ。

一方、ロイター通信は、ベネズエラの原油輸出に対する米国の全面封鎖宣言にもかかわらず、制裁対象に含まれない超大型タンカー2隻が中国に向けて出港し、米国の措置に疑問が提起されていると報道。米国は制裁対象ではない「合法的」タンカーの航行を防ぐことができず、ベネズエラ原油の約80%を輸入する中国という主要な販路が維持される限り、海上封鎖が原油輸出を実際に遮断できるかは不確実だ。

米国の対ベネズエラ政策はこれ以上、制裁の問題だけでは説明できない。これは覇権秩序の回復を狙った試みであり、ベネズエラはその戦略が適用される試験台となっている。試験の帰結は、米国の西半球に対する支配力が依然として作動する秩序なのか、そうでなければ新しい抵抗と亀裂を呼び起こす契機となるのかを示すことになるだろう。

原文 https://www.minplusnews.com/news/articleView.html?idxno=17148