情勢コーナー
対米投資強要が貫徹、国会で必ず制動を…李政権は原潜建造計画をすぐさま中止すべき
李大統領、APEC・CEOサミットで演説
李在明(イ・ジェミョン)大統領は10月29日、韓国・慶州で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の最高経営責任者(CEO)サミットで特別演説を行い、「韓国はAPEC議長国として、危機に立ち向かい多国間主義的な協力の道を導く」と強調した。
李大統領は「保護貿易主義や自国優先主義が台頭し、当面の生存が急務となった時代に協力や共生、包容的な成長は空虚に聞こえるかもしれない」としながらも、「こうした危機だからこそ連帯の枠組みであるAPECの役割は一層輝くと思う」と表明した。
APEC首脳会議は31日~11月1日まで開催され、各国首脳間の会談も並行して行われた。
韓米首脳会談
李大統領は10月29日、慶州で国賓として来韓したトランプ米大統領と会談した。
トランプ氏は、今回のアジア歴訪中に北朝鮮(※正しくは朝鮮、以下同じ)の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党総書記)との会談日程を決められなかったとした上で、今後も北朝鮮との対話再開に向けて努力するとの立場を示した。これに対し李大統領は「金委員長に会談を要請し、いつでも受け入れられると話したこと自体が、朝鮮半島に平和の温もりをもたらす」と謝意を示した。
また、李大統領はトランプ氏に原子力潜水艦への燃料供給を認めるよう求めた。李大統領は「十分に詳しい説明ができず、若干の誤解があるようだが、核兵器を積載した潜水艦をつくるということではない」とし、「われわれが原子力潜水艦の燃料の供給を受けられるよう決断してほしい」と要請した。
李大統領は「韓米関係は同盟の現代化を通じて未来型の包括的戦略同盟に発展しなければならない」とし、「韓国も防衛費増額と防衛産業の発展を通じて自主的防衛力を大きく引き上げる」と約束した。そして、「米国の防衛費負担を減らすために防衛費増額はわれわれが確実にしていく」と改めて強調した。
関税交渉で韓国側が約束した対米投資に関しては、「対米投資や購買拡大を通じて米国の製造業復興を支援する」と説明した。特に造船分野の協力を積極的にしていくとして、「それが両国経済に役立つだけでなく韓米同盟を実質化し深化させることにも大きく役立つだろう」と力説した。
トランプ氏は30日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に「韓米軍事同盟はいつになく強固だ」とし、「韓国の原子力潜水艦の開発を承認した」と投稿した。同氏は、韓国は原子力潜水艦を米フィラデルフィア州の造船所で建造するとして、「米国の造船業は間もなく大々的な復活を遂げるだろう」と強調した。同造船所は昨年、韓国のハンファグループが買収した。
韓米、対米投資めぐる交渉で合意
金容範(キム・ヨンボム)大統領室政策室長は29日の記者会見で、対米投資を巡る交渉の結果を発表した。
金氏は「対米金融投資の3500億ドル(約506兆ウォン、約53兆円)は現金投資2000億ドルと造船業協力1500億ドルで構成される」として、「日本が米国と合意した5500億ドルの金融パッケージと類似した構造だが、私たちは年間の投資上限を200億ドルに設定した」と明らかにした。
また、「年間200億ドルの上限内で事業の進捗程度に従って投資するため、外国為替市場が耐えられる範囲内にあり、市場に与える影響も最小化できる」と説明した。
韓米の造船協力強化プロジェクト「MASGA(Make American Shipbuilding Great Again)」に投じられる1500億ドルは韓国企業主導で推進することで合意している。この合意により、米国が韓国に課す自動車関税は25%から15%に引き下げられる。相互関税は7月末の合意後、15%が適用されている。半導体は競争国の台湾に比べて「不利ではない水準」の関税が適用され、コメや牛肉を含む農業分野の追加開放はないと説明した。
また、「元利金の返済前まで韓米間の収益を5対5で分配する一方、20年以内に元利金を全額返済できないと見込まれる場合は収益分配比率も調整できる」と述べた。
慶州で「NO トランプ 時局大会」開催
「トランプの威嚇(脅威)を阻止する共同行動」は29日、旧慶州駅広場で「対米投資強要 安保威嚇 トランプ糾弾 NO TRUМP 時局大会」を開催し、韓米首脳会談が開かれる現場でトランプ米大統領の略奪的投資強要と安保威嚇を強く糾弾した。
参加者は「トランプが韓国を『ATМ(現金自動預け払い機)』として扱い、3500億ドルに達する対米投資を強要している」とし、「これは韓国の外貨保有額の80%をこえ、第2のIМF(国際通貨基金)事態を引き起こす危険千万な要求」だと批判した。また、「LNG(液化天然ガス)および民間投資まで合わせれば6000億ドルに達し、韓国経済を崩壊させる行為」だと指摘した。続けて「李在明政権は民意を反映してトランプの強要に対し『NO』と応じるべき」だとし、「屈辱的交渉と『同盟の現代化』の名分の下に進む国防費増額、米国製兵器の購入圧力、防衛費分担金の引き上げ要求を断固として拒否しなければならない」と主張。そして、「駐韓米軍の活動範囲の拡大と対中けん制への参与を要求することなどは、韓国を対中前進基地にしようとする危険な試み」だとし、「すべての交渉過程は国民に透明性をもって公開し、国民的合意を経なければならない」と強調した。
声明では「トランプの経済収奪と安保威嚇は主権侵害行為」だとし、「内乱首謀者・尹錫悦(ユン・ソンニョル)の違憲的非常戒厳を防ぎ抜いた市民の力で、この事態もまた阻止する」と明らかにした。
続けて共同行動は30日、ソウル光化門で記者会見「韓米関税交渉および対米投資妥結に関連する立場発表」を開催し、今回の交渉結果について「全的にトランプに屈服したもの」「韓国経済の破たんを加速化させる」と指摘した。参加者は「『強欲強盗トランプ』の投資強要を糾弾する」「韓国経済を破壊する対米投資を撤回しろ」「対米投資、関税交渉はもとから無効であり、すぐさま撤回しろ」と声をあげた。
李大統領が米国防長官と会談
李大統領は11月4日、ソウルでヘグセス米国防長官と会談し、米軍主導の韓米連合軍が持つ有事作戦統制権の韓国への早期移管について、「韓米同盟がさらに深化し発展する重要な機会になる」とし、「韓国軍の能力が大きく強化され、朝鮮半島の防衛を韓国が主導することになれば、インド太平洋地域における米国の防衛負担も軽減されるだろう」と述べた。大統領室の姜由楨(カン・ユジョン)報道官が伝えた。李大統領は自身の任期中の移管を目指している。
李大統領はまたトランプ大統領が韓国の原子力潜水艦建造を支援する意向を示したことにも謝意を伝え、「原潜の確保は朝鮮半島の防衛を主導するための韓国軍の能力を大きく向上させ、韓米同盟の発展にも大きく寄与するだろう」と強調した。
ヘグセス氏は「韓国が国防費を増額し、最先端の通常戦力や原潜を確保することで国防力を強化しようとする努力をうれしく思い、積極的に支援する」とし、「このような側面で韓国は最も模範的な同盟」と応じた。
韓国政府は原潜の具体的な建造方法について、船体と原子炉は韓国でつくり、燃料として使われる濃縮ウランは米国から輸入するとしている。
対米投資強要に国会で制動を、原潜建造計画はすぐさま中止すべき
韓米交渉において李政権はそれなりに最善を尽くしたのだろう。しかし、今回の交渉の核心問題はトランプ大統領の「強欲強盗」ともいうべき対米投資強要そのものだ。その点ではなんら変化はなく、李在明政権が韓米同盟を重視しながら譲歩した結果となり、韓国の経済主権は大きくき損した。
トランプ氏は恣意的に関税率を上げ、次に下げる代わりに対米投資を強要した。投資は普通、資金投入する側が主導権を握り事業を進めるものだが、米国政府は、投資先は自らが決定し、損害が生じれば韓国政府が引き受け、利益が出れば半分ずつ分けると主張し、そのまま貫徹された。
本質的にはトランプ氏の虚勢と脅しに過ぎないともいえる対米投資強要が結局、「10年間、毎年(上限)200億ドルの現金投資」として現実化してしまった。先行する日本のケースより好条件で妥結したとか、半導体への関税や農業分野の追加開放に関連して成果をあげたと指摘する声があるが、トランプ氏が「米国第1主義」の名の下、頻繁にかつ簡単に主張を変えることを考慮すると安心はできない。加えて、韓国政府をくみしやすい相手とみて、さらなる要求をしてくる可能性も否定できない。
今回の合意案は国会の批准へと移る。すでに80%の国民が反対するトランプ氏の投資強要、国会は主権と国益の観点から徹底して検証し、かならず制動をかけなければならない。李大統領はAPEC・CEOサミットの演説で、保護貿易主義や自国優先主義の台頭を危機だと指摘した。そうした認識の下、李政権は国民主権政府としての自覚を新たにし、国民を信頼し国民と共にトランプ政権に立ち向かい、再交渉を進めるべきだ。国民主権政府には主権者国民がついていることを決して忘れてはならない。
韓米首脳会談の中で、李大統領は原潜建造を唐突に取り上げてトランプ氏に協力を要請した。トランプ氏はその場では返答しなかったが、これは急な提案だったことと韓国が核保有を目指すのではとの懸念を感じたからだろう。翌日要請に応えたのは、ヘグゼス氏の発言が示すように、韓国の要請を米国の戦略の中に組み込むことで一旦整理したからだ。
原潜の利点は長期潜航が可能なこと、騒音が少なく探知されにくいことにある。韓国が朝鮮と中国の動向を把握するために原潜を投入するとなれば、朝中だけでなくロシアももちろん反発するだろうし、すでに原潜保有の意向を示す日本政府を刺激することにもなる。朝鮮半島と東アジアにいたずらに軍事競争・緊張をもたらすだけであり、これは李政権が本来望むところではないはずだ。
安圭伯(アン・ギュベク)国防部長官は8日のKBSテレビの番組で、原潜保有は「自主国防の快挙」と強調した。しかし、韓米同盟強化のための国防力強化は自主国防とはいえない。真の自主国防の構築は、韓米同盟の解体と並行しながら推進してこそ実現する。原潜建造計画はすぐさま中止すべきである。
※写真-会談前に握手する韓米首脳
(2025年11月12日)



