情勢コーナー
李新政権、主権者・国民との約束を着実に履行…対米・対日外交が試金石

李在明(イ・ジェミョン)大統領は6月11日、軍に対し同日午後2時をもって北朝鮮(※正しくは朝鮮、以下同じ)に対する拡声器を使った宣伝放送を中止するよう指示した。大統領室の姜由楨(カン・ユジョン)報道官が伝えた。これを受け、軍は南北軍事境界線付近での拡声器放送を中止した。
姜報道官は今回の措置について、「南北の信頼回復と朝鮮半島の平和定着に向けた政府の意志に基づくもので、李大統領が大統領選の公約に掲げていた国民との約束を実践するもの」と説明した。韓国に対抗して拡声器放送を行っている北朝鮮による放送で騒音被害を受けている境界地域の住民の苦痛を和らげるための措置でもあるという。
これを受け、北朝鮮も韓国に向けた「騒音放送」を中断したもようだ。
李大統領、梨泰院惨事の現場を訪問
李大統領は12日、2022年にソウルの繁華街・梨泰院で159人が死亡した雑踏事故(梨泰院参事)の現場を訪れ、国民の安全を守るための対策づくりを進めると強調した。
李大統領は就任前の4日未明、当選確実の報を受けて行った演説で「国が国民の生命と安全に責任を負わなければならない」とし、そうした国の責任を完璧に履行すると表明した。
李大統領は9日、梨泰院惨事の被害者を支援するための生活支援金の申請が始まったことについて、遺族や被害者の意思を十分反映できるよう惜しまず支援するよう指示した。
平和連帯、「平和と主権の実現に向けて進もう」
自主統一平和連帯は12日、ソウル竜山・大統領室前で記者会見「朝鮮半島の主権と平和を実現するために新政府に要求する」を開催した。
記者会見では内乱・外患の厳罰、敵対的軍事行動の中止、米日覇権による外交政策の脱皮、平和の基盤づくりなど11の要求案を発表した。そして、米国の戦争策動から抜け出て平和と民生のための道へ進もうとの市民社会の要求を強調した。同案には各界から1113人、347団体が賛同した。(「主権と平和のために新政府に要求する」は別掲)
李大統領の職務遂行 「うまくやると思う」70%
世論調査会社の韓国ギャラップが13日に発表した調査結果によると、李大統領の任期5年間の職務遂行について、「うまくやると思う」と答えた人は70%で、「うまくできないと思う」と回答した人は24%だった。調査は10~12日、全国の18歳以上の1000人を対象に実施された。
政党支持率は与党「共に民主党」が46%となり、大統領選(3日)前の調査に比べ7ポイント上昇した。第1野党「国民の力」は12ポイント下落した21%だった。両党の支持率の差は25ポイントとなり、同社の調査ではこの5年間で最も大きかった。改革新党は5%、祖国革新党は4%、進歩党は1%。
李大統領、対北ビラ散布の予防・処罰対策指示
李在明大統領は14日、関係機関に対し、北朝鮮へのビラ散布の予防と処罰対策を講じるよう指示した。姜報道官が明らかにした。
姜氏によると、14日未明、南北軍事境界線に近い北西部の江華島で民間団体が北朝鮮に向けてビラを飛ばした。
姜氏は「李政権は接境(境界)地域の住民の日常と安全を脅かし、朝鮮半島の軍事的な緊張を高める違法な対北ビラ散布は中断しなければならないという立場を明らかにしている」として、「政府が立場を明確に示したにもかかわらず違反したことについて、状況を厳しく認識している」と述べた。
李大統領、北朝鮮との「対話・協力」強調
李大統領は15日、金大中(キム・デジュン)大統領と北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記が南北共同宣言(6・15共同宣言)に署名してから25年になることを受け、自身のフェイスブックに「軍事的な緊張緩和や平和な雰囲気をつくるため、途絶えている南北の対話チャンネルから迅速に復旧させ、危機管理体系を回復させる」と強調。「朝鮮半島が平和に共存し繁栄する新しい時代を開くため、こん身の力を尽くす」と言明した。
韓国政府、対米関税交渉の対策チーム設置
産業通商資源部は16日、同部の呂翰九(ヨ・ハング)通商交渉本部長をトップとする「対米交渉タスクフォース(TF)」を設置したと発表した。米国との関税交渉や米国が問題視する非関税障壁、産業やエネルギー分野を含めた交渉の対策づくりに総力を挙げて対応するため、李政権における同部の態勢を整えたもの。
韓日首脳、歴史問題は議論せず
主要7カ国首脳会議(G7サミット)に出席するためカナダを訪問した李大統領は17日、石破茂首相と就任後初めての首脳会談を行った。
大統領室の報道資料によると、両首脳は約30分間行われた会談で、北朝鮮問題を含め地域のさまざまな地政学的なリスクに対応するため、韓米日の協力を維持・発展させ、韓日間の協力も強化することで一致した。
一方、今回の会談で過去の歴史問題については重点的に議論されなかったという。
大統領室の関係者は「過去(の歴史)という言葉が全く出なかったわけではない。過去という言葉は出たが、争点を中心に話したのではなく、『過去の問題をうまく管理して協力をさらに拡大し、未来志向的関係を築いていこう』という話が出た」とし、このような内容でおおむね合意したと説明した。
外交部、国防費「わが国が決める」
韓国外交部の当局者は20日、米国防総省が同日、韓国を含むアジアの同盟国に対し国内総生産(GDP)比で5%を国防費に充てることを求めるとする新たな基準を提示したことを巡り、「政府は厳しい安保環境の中で韓国の国防力を持続的に強化させていくために国防費を必要に応じて増額してきている」とし、「国防費は国内外の安保環境や政府の財政状況を総合的に検討し、わが国が決定していく」と述べた。
トランプ政権の対韓脅威阻止共同行動(準)が発足
市民社会団体が中心となり「トランプ 経済・雇用・食糧・安保脅威 阻止共同行動 準備委員会」が6月18日、ソウル駐韓米大使館前で記者会見を通じて発足した。
韓国進歩連帯のパク・ソグン常任共同代表は「米国は安保脅威を煽れば韓国は無条件で降伏すると考え、貿易と安保で収奪しようとしている」と批判。「ノー・トランプ! ノー・キング!(トランプはいらない、王はいらない)を叫ばなければならない」とし、「李政権は主権者・国民を信じ堂々と立ち向かうべき」と強調した。
共同行動はトランプ政権の同盟収奪と安保脅威に対応する国民報告書の発刊、集中行動(20日)、国会討論会(24日)、全国巡回懇談会などを予定し、全国民的闘争の準備を続けるとしている。
李大統領、閣僚候補11人を指名
李大統領は23日、国防部や外交部など11官庁の長官(閣僚)候補を指名した。姜勳植(カン・フンシク)大統領秘書室長が発表した。
国防部長官候補には与党「共に民主党」の安圭伯(アン・ギュベク)国会議員を指名した。正式に任命されれば、1961年の軍事クーデター以降、軍出身者ではなく民間人が国防部長官に就任する初めてのケースとなる。
姜氏は「64年ぶりの文民国防部長官として、『非常戒厳』に動員された軍を責任を持って変えていくと思う」と述べた。
統一部長官候補には鄭東泳(チョン・ドンヨン)国会議員を充てた。鄭氏は2004~05年に統一部長官を務め、南北経済協力事業の開城工業団地事業を主導した。北朝鮮に特使として派遣され、当時の金正日(キム・ジョンイル)総書記と面会したことがある。
姜氏は「誰よりも豊富な経験を有しており、朝鮮半島の平和に対する確固たる哲学を持っている」とし、「北と対話する環境をつくり、朝鮮半島緊張緩和の突破口を開く適任者」と評価した。
外交部長官候補には趙顯(チョ・ヒョン)元外交部第1次官を指名した。
姜氏は「2国間、多国間外交の経験が豊富だ」とし、「通商問題にも詳しく、(米国との)関税交渉や中東問題など当面の懸案に積極的に対処できると思う」と述べた。
雇用労働部長官候補には民主労総の元委員長(2010年、第6期)で鉄道労働者の金栄訓(キム・ヨンフン)氏が指名された。
一方、農林畜産食品部長官候補の宋美玲(ソン・ミリョン)氏は尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権から唯一留任した閣僚のため、批判と反発を呼び起こしている。
長官候補は国会の人事聴聞会を経て正式に任命される。
特別検察官、尹錫悦の拘束令状請求
前大統領・尹錫悦による「非常戒厳」宣言を巡る内乱事件を政府から独立して捜査する趙垠奭(チョ・ウンソク)特別検察官は24日、特殊公務執行妨害などの容疑で尹氏の拘束令状を請求した。特別検察官チームは今月18日に捜査を開始した。
趙氏は「警察の2度の出頭要請に応じず、特別検察官が捜査を開始した後の19日にも出頭しなかった。今後の要請にも応じない意思を明確に表明した」と令状を請求した理由を説明した。そのうえで、「被疑者を取り調べるため、令状を請求した」と明らかにした。
大統領室、「国民私書箱」運営へ
大統領室は24日、国民の意見を国政に反映するため、「国民私書箱」を運営すると発表した。
経済や社会、政治、外交・安全保障など分野を問わず、オンラインで質問を受け付ける。すべての質問は李大統領に報告され、社会的な関心度が高い質問などには李大統領が直接答弁する。大統領室は「国民との意思疎通を重視する李大統領の確固たる意志が反映されたもの」として、「今後も国民がすべての政策決定の中心になるよう、意思疎通の窓口を拡大し、国民が体感できる変化をつくっていく」と表明した。
李政権、公約を着実に履行
李政権は出帆以来、いまのところ主権者・国民との約束を着実にかつ迅速に履行していると言える。
特に、南北関係において「北との意思疎通のチャンネルを開き、対話と協力を通じて朝鮮半島の平和を構築する」とした方針の下、まずは障害となっていた対北宣伝放送を中止し対北ビラ散布に厳正に対応するよう指示したことは、「意思疎通のチャンネル」を開くための先行的措置として評価される。尹政権のように北側をいたずらに刺激する必要はまったくない。また、統一部長官候補にこの分野におけるベテランの鄭東泳氏が抜擢されたことは、対北方針を具体化する上で追い風となるだろう。
長官候補で言えば、雇用労働部長官に指名された金栄訓氏にも期待がかかる。労働界出身の金氏には労働基本権の保障はもちろん、韓国オプティカルハイテック労組の高空ろう城闘争などに象徴される長期争議に対し、早期解決の先頭に立つことが求められる。民間人から国防部長官候補を選んだことは、戒厳事態の再発防止と内乱勢力の清算に向けた意志の表れと受け止めたい。
大型惨事に対して真剣に取り組むことのなかった朴槿恵(パク・クネ)、尹政権と異なり、李大統領は「国が国民の生命と安全を守る」との当然の認識の下、早速、梨泰院参事の現場を訪問し、被害者への支援も開始した。そのことを評価した上で、これまでの惨事をきちんと清算し教訓を得ながら、こうした惨事が再び起こらないように万全の対策を立てるよう望む。
一方で外交、特に対米・対日外交を李政権がどのように推進するのかが注目されており、同政権を評価する上でのまさに試金石。李大統領は「国益中心の実用外交」を掲げると共に、「堅固な韓米同盟を土台として韓米日協力」を進めるとする。具体的な政策展開に向けて準備が始まっている現段階で評価するには早すぎる部分もあるが、△国益は主権者・国民の利益に結びつくものでなければならない△米日に過度に偏重するのではなく、中ロも視野に入れたバランスの取れた外交こそが実用外交である△そうした外交が互恵平等の相互関係を築くと共に地域の平和と安定につながることを、まずは指摘しておきたい。
(2025年6月24日)
※写真-国務会議で発言する李大統領