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情勢解説

「反朝鮮ビラVS汚物風船」…ビラ散布中止・拡声器宣伝中止・軍事合意順守で南北対決の回避を

【2024年6月14日】

反朝鮮ビラVS汚物風船

脱北者団体「自由北韓運動連合」は5月10日、金正恩(キム・ジョンウン)体制を批判するビラ(反朝鮮ビラ)30万枚やUSB2000個などが入った大型風船を朝鮮側に飛ばした。これに対し朝鮮側は、ごみなどの汚物がぶら下がった風船(汚物風船)を28日から29日に約260個(韓国側発表)、6月1日から2日に約600個(同)を韓国側に飛ばす対抗措置を取った。

韓国「あらゆる措置」、朝鮮「暫定中断」

韓国政府は31日、朝鮮の挑発に遺憾を表明し、「(挑発を)止めなければ、耐えられないようなあらゆる措置を取る」と警告。申源湜(シン・ウォンシク)国防部長官は6月2日、アジア安全保障会議が開かれているシンガポールで米国のオースティン国防長官と会談。両長官は汚物風船を韓国に飛ばすことは朝鮮戦争の停戦協定違反にあたるとの認識を再確認し、朝鮮を非難した。

朝鮮のキム・ガンイル国防次官は2日夜、朝鮮中央通信を通じて談話を発表。汚物風船を韓国に飛ばすことを暫定的に中断すると発表し、韓国側が朝鮮へのビラの散布を再開すれば風船を再び飛ばすと警告した。談話は風船を飛ばすことは「徹底した対応措置」だとし、韓国のビラ散布が再開された場合、「発見された量と件数に応じて百倍の紙くずと汚物を再び集中散布する」と警告した。また「5月28日夜から6月2日未明までごみ15トンを各種器具約3500個で韓国の国境付近と首都圏地域に飛ばした」と主張した。

韓国政府は4日、閣議決定と大統領の承認を経て、南北間の相互信頼が回復するまで、2018年に結んだ南北軍事合意(9・19軍事合意)の効力を全面停止することを決めた。これを受け、国防部は4日、南北軍事合意により制約のあった軍事境界線付近と西北島しょ一帯で韓国軍のあらゆる軍事活動を再開すると発表した。

韓国政府、ビラ散布を放置

統一部の具炳杉(ク・ビョンサム)報道官は3日の定例会見で、民間団体にビラ散布の自粛を要請するかを問われると「ビラ散布問題は、表現の自由の保障という憲法裁判所の決定の趣旨を考慮して対応している」と述べ、自粛を要請しないというこれまでの立場を改めて示した。尹熙根(ユン・ヒグン)警察庁長も10日、ビラ散布を制止する法的根拠がないとの認識を明らかにした。

自由北韓運動連合は6日未明、反朝鮮ビラ20万枚を大型風船10個を使って飛ばした。韓国軍によると、朝鮮側は8日、汚物風船を韓国に向けて飛ばした。朝鮮は2日に汚物風船を暫定中断すると発表したが再開した。

6・15南側委員会、全国民衆行動、民主労総、平和統一市民行動など市民社会団体のメンバーは7日夕方、ソウル市内で「緊急キャンドル行動」を展開。9・19南北軍事合意を破棄し平和を破壊する尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権を糾弾し、「対朝鮮ビラ散布の中止と陸上海上砲射撃訓練の中止」を求めた。同行動は13、15日にも実施。

対朝鮮拡声器宣伝、再開

大統領室は9日、緊急の国家安全保障会議を開き、汚物風船への対抗措置として、同日中に南北軍事境界線付近に拡声器を設置し、朝鮮への宣伝放送を再開することを決定。韓国軍は同日午後、宣伝放送を再開した。

「共に民主党」のイ・へソク首席報道担当は9日、「南北軍事合意の効力停止により偶発的衝突の可能性が憂慮される状況で、拡声器による宣伝放送は極地戦にまで飛び火する危険をはらんでいる」と指摘。「汚物風船による挑発は対北ビラが原因」だとした上で、政府は「表現の自由」を口実に事態を放置していると批判し、国民の生命と安全のために対北ビラを阻止すべきだと主張した。また、政権危機を回避し免れるために北の挑発を局面転換に利用しているのならば、国民は受け入れないだろう」と警告した。

進歩党のユ・ジョンオ、チョン・ジョンドク、チョン・ヘギョン議員は10日、国会で記者会見を開き、「対南・対北ビラの中止、朝鮮半島の平和実現のための国会決議案」を提案した。

朝鮮労働党の金与正(キム・ヨジョン)副部長は9日に談話を出し、韓国が朝鮮の体制を非難するビラの散布と南北軍事境界線付近で拡声器を使った宣伝放送を並行して行う場合、「新たな対応を目撃することになる」とし、「これ以上対決の危機を招く危険な行為を直ちに中止し、自粛することを厳重に警告する」と表明した。朝鮮中央通信が伝えた。

ビラ散布中止・拡声器宣伝中止・軍事合意順守で南北対決の回避を

脱北者団体の対朝鮮ビラ散布から始まった朝鮮への宣伝戦・心理戦は朝鮮の汚物風船による対応措置を招いたが、朝鮮側が一旦、中断を表明したことで事態は収束するかに思われた。

しかし、尹政権は憲法裁判所が判示した「表現の自由」を口実にビラ散布を放置し事態を悪化させながら、「(挑発を)止めなければ、耐えられないようなあらゆる措置を取る」として、9・19南北軍事合意の効力を停止すると同時に拡声器による宣伝も再開し、南北の対決を激化させ軍事緊張を一気に高めている。

結果には原因がある。対朝鮮ビラの散布が汚物風船の飛来を招いたのであり、ビラに対する尹政権の姿勢が朝鮮を刺激したのは明らかだ。

「表現の自由」に名を借りた朝鮮への挑発行為であるビラ散布を即時中止させ、拡声器による宣伝を即時中止し、南北軍事合意を復元して相互順守することにより、南北対決から軍事衝突へと向かいかねない現状をまずは回避することが、国民の生命と安全、財産を守る政権が果たすべき使命だ。尹政権にそれが不可能ならば、退陣を求める声はさらに高まるだろう。

※写真-平和を破壊する尹政権を糾弾する緊急キャンドル行動(6・7、ソウル)